成長する道路という発想

生涯に1001編もの短編を発表したといわれるSF短編の巨匠、星新一先生の発想方法が興味深い。SFというジャンルから、この世にありえないものを題材とすることが多かった星先生は、全く関係ない二つの単語を組み合わせることで新しい物を生み出していたという。

僕らが何かを発想するとき、全く新しいこの世に存在が皆無なものを発想するのは難しい。けれども、既存の何かと何かを組み合わせて新しいっぽい何かを作り出す。これはそこまで難しいことでもないような気がする。

例えば、8つほど何でもいいので単語を出してみよう。思いついたものをぽっぽっぽっと出していけば良い。僕の場合、ざっと以下のようなものが出てきた。

マグワイヤ 子供 イノセンス 道路 おっぱい いっぱい 石碑 肺気胸

この中から、お、これはと思うものを二つ抜き出せば良い。「おっぱい」と「いっぱい」を抜き出すと「おっぱいがいっぱい」で、「おっぱいがいっぱいって最高じゃない?」しか書けないのでここはあえて外し、難しそうな言葉ではないものを選ぶと、「子供」と「道路」にしようか、という感じになる。この二つの組み合わせといえば「子供道路」しかありえなく、「子供しか通れない道路があって」と物語らしきものが展開するが、それはあまり面白そうではない。

星先生くらいになると、この二つからすごく面白そうな話をかけると思うが、僕ら凡人にはまだまだ難しい。そういう場合は、片方の単語を解きほぐす作業をすれば良い。

ここでは「子供」を解きほぐしてみると、子供から連想されることといえば「遊ぶ」「食べる」「泣く」「成長する」「ポケモンのフラッシュで倒れる」、いろいろと出てくる。これを先ほどの「道路」と組み合わせていく。

「遊ぶ道路」
「食べる道路」
「泣く道路」
「成長する道路」
「ポケモンのフラッシュで倒れる道路」

最後のやつがすごく興味をそそられるが、かなり難しそうなので、そこそこ面白そうで無難なものは「泣く道路」か「成長する道路」かなあ、となる。「成長する道路」ってなんだか面白そうだと、これを主題にすることを選択すると、今度はなぜ道路が成長しなくてはならないのかという理由を考える必要が出てくる。

「未来の世界では勝手に成長する道路が発明された」
「この道路は必要なところに勝手に伸びてくれる」
「利権で不必要な道路を作ったりとかなくなった」

物語の起承転結を考えると、この事象の功罪の罪の部分が必要となる。つまり、道路が成長することによって便利になることだけではなく、不都合な部分を考えておく必要がある。これはもう、「勝手に成長する」という部分が最大の不都合でよい。つまり、家があろうが人の土地であろうが、道路は勝手に成長していってしまう、という部分を不都合に添える。

そこから伏線等を考えていくのだけど、ざっと大まかな話を考えると以下のようになる。

「まだこの国が豊かで高度成長時代なんて呼ばれていた頃、道路を作る仕事があったらしい。この国のいたるところに道路が作られ、トンネルや橋や、高速道路まで作られていたらしい」

(成長する道路という主題に対して「高度成長時代」を対比として出す。そして、道路が作られた時代があったという表現で、いまは作られなくなったことを表現する。ではなぜ作られなくなったのか)

「自分の都合のいいように道路を作ったりする政治家が糾弾され、作った道路も予算消化のために掘り返したり、ただただ税金を垂れ流す道路は悪という風潮が広まり、そのうち作られなくなった」

(この辺は現代の世相とリンクさせ、ああ、そういうことあるよね、と共感を得る形にすると良い)

「町はずれにヨシキの家がある。新興住宅地というやつで沢山の家が立ち並んでいるが、そこに続く道路はない。作ろうにも作り方を知っている人間がいないからだ」

(道路が作られなくなったことによる不便さを強調する)

「ある時、この街にオリンピックがくることになった。郊外に大きなスタジアムが建てられたが、そこに繋がる道路を作れなかった。みんなが困っていると、街の発明家がやってきて「成長する道路の種」をスタジアムの周りに蒔いていった」

(時事ネタに絡めてオリンピックを出し、ここで「成長する道路」が登場する。これで問題点がクリアされる描写を次に書く)

「次に日には、スタジアムから街にまっすぐ伸びる道路ができていた。真新しいアスファルトの匂いに町中の人々が歓喜した。」

(次にこの道路の特性を説明するエピソードを入れる)

「不思議なことに、この道路はある程度の人が望めば次の日には道路ができていた。ヨシキの家がある住宅地にも立派な道路ができていて。みんな笑顔で車通勤をはじめた」

(望めば成長するという特性が、最初に考えたデメリットに繋がるようにする)

「みんな喜んでいたけど、ある時、ヨシキの家がなくなっていた。ヨシキの家は大きな道路を通すのに邪魔だった。大きく迂回するよりヨシキの家を突き抜けたほうが早かった。ヨシキとその家族はずっと反対していたけど、次の朝にはヨシキの家はなくなっていて、家族全員、道路の上で寝ていた。勝手に成長していたのだ」

(実は道路が成長しなくても、現代でこういうことは普通にある。公共の望みは個人の望みより優先される。その辺の揶揄をいれる)

「政治家が言い出した。このままむやみやたらに道路を望むと、皆さんの家がなくなったりするぞと。すぐに道路を望むことが法律で規制された。そして、政府の指示に従って道路を望むように命令が来るようになった。そして、政治家が都合のいいように自分が買い占めた土地などに道路をひくようになった」

(最初に戻って道路を作っていた時代と何も変わらない我欲の道路になるという皮肉が入る)

「これには庶民の怒りが爆発し、デモのようになって政治家を吊し上げた。そして、それぞれが好き勝手に道路を望んだ。」

(いよいよラストへ)

「次の日、目が覚めると、辺り一面、地平線の向こうまで全部アスファルトになっていた」

こういう感じで、あまり深く考えなくともそれなりの話ができてしまう。こういった二つの単語から発想して物語を作ることは、創作というよりも訓練としかなり良い。

そこでお勧めしたいのがみんな大好きウィキペディアのランダムアクセスだ。

http://ja.wikipedia.org/wiki/Special:Randompage

これを使うとウィキペディア内のページにランダムで飛ぶ、それを二回繰り返してその組み合わせで物語を書くといい。難しそうなら片方を解きほぐせばいい。そうすれば必ず訓練になるはずだ。実際にやってみると

愛が見えない - Wikipedia

兵庫県道548号戸島玄武洞豊岡線 - Wikipedia

すげー難しそうだけど、「愛が見えない兵庫県道548号戸島玄武洞豊岡線」
というタイトルで書くとなかなか面白そうで、さらにこの豊岡線の該当区間は、山に沿って走るような位置にあり、玄武洞の前後はすれ違いの困難な区間があるらしい。

つまり対向車線がきて、そのすれ違いが困難で、お互いに車を降りて困りましたと会話していたら、相手の女性がミステリアスで怪しくて、もしかしたらトランクに旦那の死体でも隠しているんじゃないか、って思えてきて、彼女のもつ愛の気持ちってやつを探り始める。という風に物語を書くことができるのだ。

さらに訓練でもう一本ランダムアクセスしてみると

乳房 (大江千里のアルバム) - Wikipedia

ミリオンセラー - Wikipedia

これも難しいけど、大江千里が出てくるとややこしいので消して、「乳房」だと難しいので「おっぱい」と噛み砕く。そして、「ミリオンセラー」を解きほぐすと、「ブーム」「印税」「いっぱい」「売れてる」などの単語が出てくるので、「いっぱい」を採用し、「おっぱいがいっぱい」となる。そうなると、「おっぱいがいっぱいって最高じゃない?」としか書けない。