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何度確認してもXvideosなのである

駅へと続く大通りから少し離れた小さな路地。そこにかつては商店街だったであろう町並みが存在する。ほとんどがコインパーキングや住宅に作り変えられ、少しだけ残っている店舗も堅くシャッターを閉ざしており、今やその面影はない。

通 りの入り口の朽ち果てた看板に版権ギリギリと言うしかない片目の落ちた怪しげなネズミのキャラクターが鎮座しており、「いつも笑顔の商店街」とお前に言わ れてもどうしようもねえよというセリフを吐いている。これがあるからかろうじて商店街の体裁を保っている状態だが、パッとは見は住宅街にしか見えない。

そんな悲しき商店街にあって、2店舗だけ生き残っている店舗があった。普段なら逆境にめげずに頑張る2つの店!と微笑ましいことこの上ないのだが、どんな偶然なのか、その2店舗ともが理髪店なのだから始末が悪い。

もしかしたら理髪店というものは生き残りやすいビジネスモデルで、この商店街が死に行く時も必然的に生き残ったという考え方もできないくもないが、とにかく、通りに2つの理髪店が燦然と輝いているのである。

さて、そうなるとお互いに意識するのか、通る度に注意深く観察してみると互いの店の看板が激しい火花を散らしているのだ。これがなかなか趣があって面白いのだ。

手前の店が「ナチュラルカラー」みたいなヘアカラーを推そうと、黒板みたいな立て看板に「いまナチュラルカラーがブーム!」みたいに書いて店の前に置く。すると、次の日には奥の店が「当店のナチュラルカラーのほうが熱い!」みたいな看板を置く。意識しすぎだろう。

暑い日などは手前の店が「クールシャンプーで頭も心もスーッとスッキリ!」と書けば奥の店が「当店のクールシャンプーのほうが熱い!」と書く。おいおい、クールシャンプーが熱くちゃ困るだろ。

そのあからさまなライバル意識はなんだか心地よく、爽やかなスポ根もののドラマを見ているような気分にさせてくれるものだった。

ある日、手前の店が新たな新機軸を打ち出した。「顔剃り500円!」これからの推しは顔剃りらしい。散髪の時、ヒゲを剃った後に顔全体を剃ってくれるアレである。本来なら散髪に付随してくるあれを単独でやってくれるというものだ。

よく考えたらこれは大変利に適っている。髪の毛なんて1ヶ月、その気になれば2ヶ月でも3ヵ月でも放置できる。ジョンレノンを目指すなら1年くらいは行かなくても良い。言い換えればそれだけ理容店に行く必要がないのだ。

しかし、顔の産毛となれば永久に放置でも良さそうなのだが、一度気になるようになれば頻繁に剃る必要がでてくる。明らかにすぐ伸びてくる。店を訪れる頻度を考えるとなかなか上手い戦略なのだ。

こ れにもすぐに奥の店は反応した。「顔剃りが熱い!」お前はそれしかねえのかと思うしかないが、奥の店も必死なのだ。さらに手前の店が畳み掛ける「顔剃りだ けでもお気軽に!500円!」すぐに奥の店も対抗する「顔剃りだけでも利用してください!熱い!」もう意味が分からないが、とにかく熱いのだ。

ここまで熾烈ならちょっとどちらかの店で、それも支離滅裂になってる奥の店で顔剃りやってみようかな、という気持ちになってくるが、いくらなんでもそれはできないと言う事実に気がつく。

僕 自身は類まれなるブサイクフェイスであると自負してるので、そういった顔に関するケアをしてはいけないと思っている。もちろん、皆さんがやってもらう分に は構わないし、ブサイクといえども勇気と誇りを持って強く生きていって欲しい。そう、君の心は美しい。前に向かって走れ!

とにかく、僕のようなブサイクが「顔剃りお願いします」とか言ったら、「プププ、顔の産毛の前に何とかする場所あるでしょ」とか「顔のパーツ全部剃ったらどうですかぁ」とか思われてやしないか不安なのだ。だから絶対に「顔剃りお願いします」なんか言えやしないのだ。

お 店同士の争いはさらに激化し、手前の店はついに禁断の領域へと突入した。「女性の方も顔剃りどうぞ!」と掲げだした。今度は女性がターゲットだ。もちろん 奥の店も予想通り「女性の顔剃り熱い!」となんだか火傷しそうだ。もはや意味不明になっているのだけど、どうやら本当に女性の顔剃りは熱いらしい。

女性の行く美容院などは基本的に顔剃りができない。どうやらそういう決まりになっているらしい。世の女性がどうやって顔の産毛を処理しているのか興味は尽きないが、おそらく理容店で剃ってもらうのも1つの選択肢になりうるのだ。

「女性も安心して顔剃りできます」

「女性も安心、そして熱い!」

し かしながら、どう転んでも両店舗とも朽ち果てかけた商店街の理容店。そのオドロオドロしい外観はいくら誘われても中に入ることが躊躇われる。片方なんて意 味不明に熱いと言ってるだけだし。お互いの誘い文句も空しく中を舞っているだけだった。そんな状況を察してか、ついに手前の店が動いた!

「女性の方も安心できるよう、ホームページに顔剃りの動画を載せました。アクセスはこちら」

QRコードを掲載し、顔剃りの動画を公開したと言うのだ。こうやって顔剃りしますからね、女性も安心ですよという主張だろう。その発想はなかった。なかなか策士であるし、電脳ボーイである。サイバー床屋の称号を与えたいくらいだ。

奥 の店もすぐに応じた。しかしながらQRコードの載せ方が分からなかったのか、くっそ長いURLが掲載されていた。ウィキペディアのアドレスみたいな状態で 7行くらいに渡って英数字とか%が羅列されていた。ちょっとー顔剃りの動画だってー、とそのアドレスをスマホに打ち込む女がいるとしたら、顔剃りの前に 色々とすることがあるに違いない。生き方を見直すとか。

さすがにそれじゃあまずいと思ったのか、数日すると決死 の覚悟でQRコードが掲載されていた。「顔剃りの動画です。ご覧ください」よほど掲載に苦労したのかいつもの熱量が感じられない。「顔剃り動画!熱 い!FREE XXX!」と毒々しく書くくらいのことはやって欲しかった。

とにかく、奥の店が苦労してQRコードを載せたんだ。少し読み込んでみるか、どんな動画か観てみるか、とスマホで読み取りアクセスしてみた。Xvideosだった。

何度確認してみても、何度読み込んでみても、Xvideosなのである。たぶん、おっさんが苦労してURLをQRコードにしたとき、間違えていつも愛用しているエロ動画のURLを入れちゃったんだろうな。

悪 いことに、アクセスしてみるとそのエロ動画が、マッサージに来た無防備な女性にマッサージ師がエロいことをするという動画で「本当にそんなところするんで すか」「えええ、リンパに悪いもの溜まってますからこうやって掻き出さないと」というもので、女性が全く安心できない、とんでもない動画になっていた。女 性が顔剃りにいったらこれされちゃうのかな。

前述したように、やはりこの朽ち果てた商店街で顔剃りをしようという女性はいない。それどころかお客も老人が中心だ。QRコードを読み込む人はいなかったのだろう。間違いを指摘する人がいないのだ。2週間はそのXvideosのQRコードが掲載されていた。

僕は毎日その店を通るたび、QRコードを確認し、今日もXvideosであると笑顔になる。怪しげな看板のネズミが言う「いつも笑顔の商店街」それは間違いないのだ。今、この商店街が熱い!そう言わざるを得ないのだ。