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僕の年収はマウンテンゴリラ

数字なんて存在しなければよかったのにな。こんなものがあるから人は嘆き悲しみ、時には殺されてしまうんだ。

改めて周りを見回してみると、僕らはとにかく数字に縛られて生きている。ノルマ、偏差値、年収、締切、時間、体重、アクセス数、これら僕らにのしかかってくるものは全て数字だ。こんなものがあるから人は嘆き苦しむのだ。存在しなければどんなに楽か。

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数字ってやつはこの10通りのキャラクターしかいない。どれもなんだか冷徹で全く温かみを感じない。工場が潰れる時の銀行員みたいな雰囲気だ。特に「1」と「4」と「7」の冷徹さはやばい。オヤジが土下座しても平気で融資を打ち切るし、それどころかこれまでの分も全額一括返済を迫ってくる勢いだ。

もしかしたらなのかもしれないが、こんなシャープでスマートなキャラクターを「数字」として使っているから、ここまで冷酷に感じるのではないだろうか。もう僕らの生活から数字は切り離せない。それなら少しでも心安らかにいられるよう、この冷酷なキャラクターはやめて、そう、例えば野生の動物なんかを使ったら良いのではないだろうか。

「俺の年収、マウンテンゴリラだぜ」

「え、すごい」

鼻につく年収自慢もほっこりだ。

「かあああ、今回の模試ミスった、偏差値カピパラだよ」

「まじかー、俺なんてタスマニアタイガーだぜ」

「それやばくね?」

オオサンショウウオには言われたくないわー」

高校生たちも心にゆとりを持って模試の結果に向き合える。偏差値30とか無慈悲に出ると自殺しかねないから、偏差値タスマニアタイガーだと、まあ、いいかなって感じになってくる。

「やまだくーん、どうなってんの?今月のノルマ、君だけだよね、達成してないの」

「はあ、でもさすがに月にドゥグランクールはきついかと」

「きみだけだよドゥグランクールごときできついと言ってるの」

もはや何の動物か検索しないと分からない。ノルマの具体的なハードルの高さがあまり伝わってこなくてグッドだ。これならノルマ未達成でもデカい顔していられそうだ。

とにかく、僕らはあまりに数字に左右されすぎなのである。もちろん、たかが数字、されど数字、なのは理解できる。時に数字の呪縛とはげに恐ろしきものであるのだ。

一時期、あるパチンコ屋に朝の開店前から毎日並ぶという荒行を行っていた僕も、その数字の呪縛に翻弄された一人だった。皆さんも、パチンコ屋の周辺で汚いおっさんどもが行列を作っているのを見たことがあるだろう。 あの行列には、「抽選」という恐るべきシステムが存在している。

普通はデパートでもなんでも開店待ちの行列は、並んだ順に一斉に入店するが、実はパチンコ屋はそうではない。多くのパチンコ屋がこのシステムを採用しているが、あれは抽選を受けるための行列である。こんな回りくどいことをしているのにはちょっと事情がある。

パチンコ屋に並ぶ人間ってのは基本的に頭がおかしいので、並んだ順に入店!とやると激戦区や人気店では徹夜で並ぶやつとか、ひどい時には前の日から並ぶやつとか出てきて大変なことになる。夜通し怪しい人間が並んでるなんて近隣住民としてもたまったものじゃないので、そういう輩を防止するために抽選制度を採用している。

どうせ抽選するなら狂ったように早くから並ぶやつはいないという狙いだ。 パチンコの遊戯だって抽選みたいなものなのに、その店に入店する順番すら抽選で決める。どれだけ抽選が好きなのかと言いたくなるが、そういうシステムなのだから仕方がない。

とにかく、早く入店できるに越したことはない。みんな何らかの思惑があって朝早くから並んでいるのだ。できるだけ若い番号を、若い番号を、そういった思惑が渦巻いているのである。

ある日、ルンルン気分で通い慣れた店に行くと、行列に6人並んでいた。動物で言うと、行列にレッサーパンダ人並んでいた。ハッキリ言って開店待ちの行列にレッサーパンダ人はかなり少ない。もっとインド象人くらいは欲しいものだが、まあ、この店のクソさから言えばそれも仕方ないという人数だった。 しかしながら、こんなクソな店だけど、僕には狙い台があった。明らかに数日前から設定レッサーパンダを投入しているとおぼしき機種があるのだ。レッサーパンダはなくともクリオネくらいの設定はありそうだと睨んでいる機種があるのだ。それを奪取しなくてはならない。

そうなってくると、列に並んでいる他のメンツが全員、僕と同じ狙いをしているように思えてくるから不思議だ。こいつらもきっと同じ狙い。やはりこいつらより先に入店して狙い台を確保しなければならない。それには抽選に勝つしかないのだ。一つでも若い番号を、とにかく早い番号を。そう、どんな時も僕らは数字の呪縛から逃れられない。

いよいよ抽選が始まる。参加者は7人、いや、キタキツネ人だ。僕の後には誰も来なかった。抽選する必要ない人数だが、決まりなのだから抽選しなくてはならない。店員が機械を設定し、いよいよ始まる。

先頭の男が抽選する。パソコンの画面にでかでかと4(リュウグウウノツカイ)と表示された。半分より後ろだ。ややくじ運が悪い。すぐに横の機械から数字が刻印されたレシートが出てきて、それを受け取って列を離れる。不本意なのか、少しうなだれた感じだ。 やはり狙ってやがったな。

次の男が抽選に挑む。2番(バンドウイルカ)だった。嬉しそうにガッツポーズをしている。次の男は5番(クリオネ)、3番(ネコ)、6番(レッサーパンダ)と次々に進んでいく。その結果に一喜一憂だ。

なんとうことだろうか。僕の前の男の時点で残るは1番(キリン)と7番(キタキツネ)だけなのである。この男がキタキツネを引けば、僕は必然的にキリンとなる。確実に狙い台が取れてしまう。そもそも朝の抽選からキリン番とは縁起がいい。

いよいよ前の男が抽選を始める。パソコンの画面が動き、チープなドラムロールがなる。不安と緊張で心臓が張り裂けそうだ。

どーん!

結果が表示された。

「7」

キタキツネである。男はがっくりとうなだれた。僕は心のなかでガッツポーズだ。必然的にキリンを手にすることができるのだ。 「まあ、結果はわかってるんだけどね」 そんな表情をして抽選マシーンに向かう。遠巻きに見守っている戦友たちが恨めしそうに僕を見ている。至福のひとときだ。

ボタンを押す。まあ、1番なんですけど、おっとキリン番だったね。ありがとう、ありがとう、戦友たちよ。おれ、狙い台を取るよ。

チープなドラムロールがなる。

はいはい、1、1、キリンキリン。

どーん!

「1028」

ちょっとまて殺すぞ。なんだこれ。なんだこれ。1028ってーと、えっと、一桁づつ動物割り当てていくから、キリン、クジャクバンドウイルカ、サンダイメジェイソウルブラザーズってもうええわ、動物なんてどうでもいいわ。めんどくせえ、動物死ね。

なんだよ、1028ってなんだよ。並んでるか?1000人並んでるか?え?お?どうみても7人しかならんでないが?1028ってなんだ? え?お?

「あ、故障ですね、よくあるんですよ」

「なんだ故障か」

でも手渡されたのは1028番のレシート。こいつら本気やで。普通、故障なんでって1番渡すだろ。なんだよ、おれだけ4桁って。

レシートを受け取った客たちは、開店直前に店員に番号を呼ばれて召喚され、再整列をするんですけど、

「1番のおきゃくさまー!欠番っと」

「2番のおきゃくさまー!」

って呼ばれると指定されたところに並ぶのね。7番まで進んでいって

「1028番のおきゃくさまー!」

列の連中も店員もみんな笑いこらえてますからね。7から1028って何があったんだって後から来た客も騒然ですよ。ホント、みんな数字に縛られすぎてるよ。ちなみに、狙い台はクリオネ番の男に取られました。

僕らは常に数字に縛られている。もう数字に縛られるのはやめたほうがいい。ついでに言うと、もうパチンコはやめたほうがいい。僕は負けてばかりだ。もう行かない。パチンコはやめだ。20歳でパチンコやり始めてから通算でマウンテンゴリラくらい負けてる。なんかそう言ったらまろやかだな。あんまり負けてない気がするわ。よっしゃっ今週末も行くわ。