僕は生物学者になんかなりたくなかった

高校の頃、ブライアンくんというアメリカからの留学生がクラスにやってきたことがあった。

我が高校は留学生を召喚するほど国際性に熱心な学校ではなかったが、たしか浜本くんのお母さんがそういった事に熱心で、浜本くんをアメリカに留学させる代わりにブライアンくんを招聘したような形になっていた。いわゆる交換留学生というやつだ。

僕らからすると、ある日学校に行くと浜本くんの姿が消え、代わりにその席には白人が座っているのだ。あのコテコテのコケシみたいな顔していた浜本くんが青い目の外国人に変わっている。とにかく大パニックだった。整形にしてももうちょっと徐々に変えていったりしろよ、と本気で思っているやつまでいたくらいだった。

ブライアンくんは浜本君の家にホームステイしていたのだが、悪いことに浜本君と方向が同じなのは僕だけで、自動的に彼を家まで送り届ける大役を仰せつかることとなった。全然日本語が通じない、僕も全く英語ができない、でもなにか話さないと、こいつ戦争に負けたことまだ根に持ってだんまりだぜ、国に帰ったらトニーに教えてやろう、ハハハ、くらい舐められてしまうかもしれない。なにか話さなければ。なにか。なにか。

そんなとき、英語の授業で習いたてほやほやの「biologist(生物学者)」という単語が頭に浮かんだ。これしかない。そう思った。

「僕は生物学者になりたいんだ」

つたない英語でそう言った。ブライアンくんは青い目を丸くして驚いた。なんか興奮していたけど「実は僕もなんだ」みたいなことを言っていたと思う。次の日からブライアンくんは国から持ってきた英語の資料をやたら僕に見せてきて、「僕の国ではこの研究所が最高の環境で」「我が国での生物学の発展は」みたいな話しを延々とされた。僕は生物学者になんてなりたくないのに、彼はそれはそれは熱心に説明してくれた。なんだか悪い気がして、もうその青い瞳を直視することができなかった。

 彼は基本的にイイヤツだったんだと思う。もう浜本いらんからブライアンくんが残れって思うほどにいい奴だった。でもね、僕が一番衝撃を受けたのは、そういった親切心ではなくて、言語に対する寛容さだ。

今思うと僕はものすごくめちゃくちゃな英語で彼と会話をしていて、彼は伝わらずに困った顔をすることはあったけど、一度も笑ったことがなかった。僕のヘンテコ英語を笑うなんて一切なかった。きっと国民性もあるのだろうけど、彼は絶対に変な英語をバカにしなかった。

 逆の立場だったらどうだろうか。これは僕の偏見かもしれないけど、外国人が変な日本語を使っているのを面白おかしく笑う機運って確実にあると思う。

例えば、ムキムキの外国人が「イカした日本語のタトゥーを入れたぜ、どうだパワフルだろ」とか言って、日本語よくわからなものだから「もやし」とか相撲取りみたいなフォントで彫り込んでいたら、やっぱり笑っちゃいますよね。それ、パワフルじゃないよって言いたくなりますよね。

でもこれって、実は良くないことなんじゃないかって思うんですよ。それって例えば僕が一生懸命考えた英文をアメリカ人に読んでもらったら、あいつらケンタッキー食ってペプシ飲みながらゲラゲラ笑い始めた、みたいなもんですから、やはりあまり気分が良いものではありません。

そもそも、言語が未熟ゆえに変な言葉遣いをするのは何もおかしいことではありません。むしろそれを笑う風潮にあることこそが、日本人が中高大と英語を学び続けても一向に喋られるようにならない原因なのかもしれません。笑う風潮にあるからこそ、笑われないように英語を使うのを躊躇する。結果、完璧で笑われないという保証がないので使わなくなる。そして全く上達しない。こういうことではないでしょうか。

間違っていようが変な用法であろうが、ガンガン使う。伝わりゃいいんだろ、くらいに使う方が上達は早いような気がするのですが、なかなか日本人はそうはいきません。ということで、今日はちょっと皆さんにつっこまざる得ない日本語をいくつか紹介します。それをみてつっこまないように必死で我慢してください。

ちょっと、画像補正アプリなんかを探していたら、おそらく中国か台湾の会社が出しているアプリがありましてね、いくつかはそのまま中国語っぽい説明文が書かれているのですが、なかには日本語で書かれているものもありまして、それを掲載していきたいと思います。絶対につっこんではいけませんよ。

 

1.知らんがな

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もうアプリ名から読めないんですけど、たぶん失くした携帯電話の位置情報とかを検索できるアプリだと思います。しっかりとそのへんも日本語で説明されているのですが

 

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 「データーを保護するために、携帯電話を探して

知らんがな。なんでちょっとわがまなな彼女が彼氏に命令してる感じなんだよ。いまなーハナちゃんと買い物しに梅田に来てるんやけど、うん、そうそうHEP、そう、でな、携帯なくしてもうたねん、データーを保護するために携帯電話を探して!知らんがな。

 

2.大恐慌前夜

1929年、暗黒の木曜日という世界的大恐慌が巻き起こった際にある逸話が残っています。ジョセフ・P・ケネディ氏はウォール街の有名な靴磨きの少年が投資を薦めた事から不況に入る日は近いと予測し、暴落前に株式投資から手を引いたのです。靴磨きの少年まで投資に手を出すほどの投機熱は必ずや破綻すると読んだのです。

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 たぶんPOCO撮影というアプリです。写真共有アプリみたいなもので、みんなで撮影した画像を共有して、ああでもないこうでもないと盛り上がるようなものだと思います。説明文もそんな感じでいい感じの日本語で書かれているのですが

 

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 「オンラインプラットフォームの美しさと為替の体験をお楽しみください

写真共有アプリまでもが為替相場を勧めてくるわけですから、これはもう靴磨きの少年どころの話ではありません。大恐慌は近い。

 

3.突如の台湾推し

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アプリ名なげえよ。HUNTERのタイトルかよ。まあおそらく姓名判断ソフトなのだろうと思います。説明文もまあまあ支離滅裂ですが、なんとなく雰囲気は伝わってきます。

 

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「秘密の運命を探るために名前から占い推定値を、一致つかの間の幸運分析、名前です!あなたが名前を変更したソリューション名マスターという名前のプロ選手を作成するために台湾素晴らしい音楽のマスター」

なんか途中から急にシャブの効果が出てきたみたいになってる。突然の台湾推しもよくわからないけど、それ以上に音楽のマスターもよく分からない。TETSUYA KOMUROでも出てくるのかもしれない。

 

4.アプリの紹介中に何かが起こった。

おそらく暦を確認するためのアプリだと思うのですが、それの紹介中に大きなアクシデントが起こったパターン。もしかしたら暴漢が乱入してきたのかもしれません。

 

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「あなたが天候を見に行き、旅行することにしました助けて!

 これ絶対にスタジオに日本刀持った暴漢が押し入ってるわ。完全に阿鼻叫喚。死人出てる。

 

5.哲くんへの熱い思い

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もはや何のアプリなのか一切分からないのですが、観音や慈悲の女神に混じって「哲クン」が二回も出てくる。よっぽど好きなんでしょうね。

 

6.抑えられない想い

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たぶん画像を綺麗に補正してくれるアプリ。もしかしたらコインとか錬成されてくるのかもしれませんね。

 

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「自己アーティファクトに電話!ビッグ星 は~ああ大好き

この人に何があったのか。全部わけわからないですけど、特に最後はあまりに唐突。もしかしたら哲クンのことを突然思い出したのかもしれませんね。気持ちが爆発しちゃったかな。人の気持ちなんてそうそう抑えられるものじゃないですからね。好きに恋したらいいんじゃないでしょうか。

 

7.突然に罪を糾弾される

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もはや何のアプリなのかもわかりませんが、たぶん風水的ななにかだと思います。なんだろーなーと説明を読んでいると突如として因縁をつけられます。

 

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uは様々な問題を解決するために、応答罪!

いきなり罪を犯しているYouは応答罪だ!と言われても戸惑うだけです。そもそもそんな罪は存在しない。

 

いかがでしたでしょうか。おそらく翻訳ソフトにベロンと入れているだけなのでこのようなことが起こっているだけなのでしょうが、こういったおかしい日本語をあまりバカにせず、寛容に受け入れることが大切なのだと思います。言いたいことは結構わかりますしね。

ちなみに、冒頭のブライアンくんですが、彼が帰国した後にしばらくして帰ってこなくていいのに浜本くんが帰国してきて、ちょっとタイムラグがあったので向こうで少しブライアンくんと生活していたらしく、彼は元気か?ときいたら

「お前、むちゃくちゃな英語だったらしいな。ブライアンがむっちゃ笑ってたぞ。生物のはなしししてるのに突如として便器とか単語出てくるか面白かったとかいってたぞ」

けっこうブライアンは嫌な奴で、笑われていたんだという事実。アメリカ人は英語がおかしいのをバカにしない!とかキリっとして書いた前半戦の僕に謝ってほしい。もうあれだよ、やっぱ変な日本語はつっこんでいいんじゃないかな。

「俺もつられて笑っちゃったよ、ハハハハ」

と少しアメリカナイズされた感じで笑う浜本。お前は日本人なんだから笑ってるんじゃねえよ。いちいち応答して笑ってるんじゃねえよ。それは応答罪!