読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

水曜日のアリス

水曜日ってやべーよな。

世間では月曜日が悪者っぽく扱われていて、やれ来なきゃいいだとか、滅びればいいとか言われてるじゃないですか。土日はもう聖人で、金曜日も次の日休みだし許してやるかって風潮ですけど、僕、水曜日こそが一番の黒幕じゃないかって思うんですよね。

休日である土曜日、日曜日さんはそりゃあ立派で、主人公クラスですよ。ドラマ化したらこれから売り出したいジャニーズあたりが演じて、一番の悪役である月曜日を打ち倒す感じになるんでしょうけど、実は全ての黒幕は水曜日だったってね。たぶん、「人類なんて絶滅すべきだよなー、そう思わないかね、月曜日クン、フフ」と月曜日の耳元で囁いて暗黒面に堕ちるきっかけを作るのが水曜日だと思います。とにかくこの水曜日は悪質極まりない。

まず、他の休日と繋がる気が一切ない。月曜日は皆に好かれようと一生懸命に休日になったりすること多いですし、火曜日もそんな月曜日と手を組んで、大型連休を演出したりする努力を見せるんですけど、水曜日だけ一切その気なし。俺は連休に参加する気ないから、みたいな、ちょっと高飛車な感じするじゃないですか。ゴールデンウィークとか稀に連休に組み込まれるとすげえ不本意そうな顔してますしね。俺は他の曜日と違うって白金のマダムみたいなの気取ってるつもりなんでしょうかね、こいつ。

そして何より、行くも地獄、戻るも地獄、みたいな所あるじゃないですか。月火と頑張ってきたのに、ざんねん、まだ木と金があります!とかさ、こんなの人の心があったらできませんよ。もう悪意しかない。すげえ悪意の塊みたいな存在のくせに「水」とかちょっと清涼な感じを演出してますし、たぶんもう30年もすれば水曜日だけ色気づいて「aqua」って自称しだしてますよ。月火aqua木金土日って呼んでねって、ちょっと特別でオシャレな自分を演出してくる。こいつはそういうやつですよ。無骨な名前なのに頑張ってる土曜日を見習って欲しい。

で、水曜日がaquaって自称するようになったら、調子に乗って色のついたタイツはいて原宿とかいくようになりますよ。でけーオニヤンマみたいなメガネつけていきますよ。そしたらね僕はガツンと言ってやるつもりなんですよ、「aquaとかつまんねーこと言ってんじゃねえよ」ってガツンと言いますよ。それは僕の義務じゃないかなって思ってますからね、絶対にいいます。

で、その悪魔の黒幕たる水曜日になってくると、周りの後輩も元気がなくなってくるんですよ。業務の内容的にハードだってのもあるんでしょうけど、やっぱ週の半ばという水曜日の持つ悪質性にやられているんだと思います。

そういうとき、僕は元気が出るように後輩に自分の失敗談を話すんです。そうすると、同僚も、こんなヤツが平気な顔して生きてるんだって希望を持って悪質な水曜日を生き抜いてくれるんです。

「おまえさー反省文って書いたことある?」

こういう出だしで始まる僕の失敗談。必ず後輩は「ない」とか「子供の頃なら」って答えます。そこで言ってやるんですよ。

「俺は2016年になってから書いたぞ」

そこでもう、普通の若手なら腰抜かしちゃいますね。こ、こいつ、もう結構いい年じゃないか、なんで反省文なんか書かされてるんだよ、この時点で水曜日の憂鬱なんて忘れてるんですけど、ダメ押しですよ。

「しかも、その文面にインポとか書いてあったら?」

もうガクガクとなっちゃって、気の弱い子なら失禁しちゃってもおかしくない。そこで追い討ちをかけるように淡々と話し出してあげるんです。

2015年の暮れ、僕は職場の忘年会に呼ばれることになった。普段なら居酒屋などで開催される忘年会だが、なぜか単身赴任している上司が住む一軒家で開催されることなった。

場所が非常に分かりづらく、遅れて到着すると、既に宴は出来上がっていて非常に盛り上がっていた。僕の座る場所がなかったのだけど、なんとか無理やり上司の対面に座った。上司と会話したくなんかなかったけど、彼の左右に職場でもかわいいと評判の女性二人が配置されていたので、それ目当てで座った。

上司は普段からつまらないダジャレを連発する人で、あからさまなダジャレでも言ってくれればいいのに「焼酎をしょっちゅう飲む」とか、ちょっと判断に苦しむものを連発していて、女性二人も愛想笑いでむちゃくちゃ顔の筋肉を使っているようだった。

そこで上司が急に真面目な顔になって女の子に言うんですよ。

「最近全然ムスコがいうこと聞かなくって」

許せないって思った。メロスは人一倍正義に正義に敏感だった。こういった場で酒の勢いに任せてちょっと下ネタを言う気持ちは分からんでもないですけど、そういうダイレクトに下半身のこというのってどうなんだろうって思ったし、インポ的なカミングアウトまでして、何を期待してるんだ、じゃあ私がやってあげます、元気にしてあげますとか、そういうのを期待してるのかと思って、すごい下心が見え透いていて腹が立った。

だから僕は言ってやったんですよ。

「そういうセクハラはよくないと思います。いくら酒の場でも」

毅然と言ってやりましたよ。女子社員も助けてくれてありがとう、あのインポ!くらい言ってくれるかもって期待しましたし、なにより、上司であろうと悪を許さない自分に酔いしれている部分もあった。僕は曜日で言えば木曜日だ。決して華やかではないし、地味だし、休みとも関係ないけど、水曜日の横暴を許さない木曜日。そんな存在でありたいと思った。

そしたら上司がそんな僕を無視して話を続けるんですよ。

「でね、ムスコにがんばれって声をかけるかどうか悩んでるんだよ」

おいおい、オイタが過ぎるだろ。だいたい声をかけてもどうにもならんわ、ちょっと口に含んでくれんか、おお、そうそう、裏筋を、とかいうつもりだろ。許せん。

「やめたほうがいいと思います」

今度は強めに言いました。木曜日は絶対に悪を許さない。すると上司はさらに続けるんですよ。

「もう少しでムスコが受験でね」

ばかいうな、チンポの試験なんてあるわけないだろって思って、木曜日は悟りましたよ、本当の息子の話だと。上司がチンポの話してると思ってたのこの場で木曜日だけだった。

「で、どうなったんですか?」

ここまで話すとまあ、だいたい後輩は元気になってますね。こんなゴミがいるのか。それでも生きてるのかこいつ。水曜日の憂鬱にやられた彼を助けられるのは木曜日の僕しかいない。でもいちおう、さらに元気になるように続きも話してあげるんです。

「年があけてすぐに自主的に反省文を書いて上司に提出したよ。上司がムスコといっているのを生殖器のメタファーであると勘違いし、ムスコが言うことを聞かないという話をインポテンツと勘違いしました、みたいなこと詳細に書いたんだぞ」

「そ、それで……」

ここまできたらもう大丈夫。後輩は元気になってる。きっと水曜日も乗り切れる。

「受け取った上司は言うわけよ。勘違いは誰にでもあるが、まあ私の言葉の選択も悪かったようだ。このことは水に流そうって、悪意があったわけでもないだろうしって言うわけよ」

「よかったですね」

「で、なぜか場を和ませようと思ったのか、水に流そうと言った後にaquaに流そう、悪意だけにaquaにってね、とか言い直しやがるんだよ」

「うわ、よくわかないっすね、あまりかかってないし」

「だからいってやったよ、aquaとかつまんないこと言わないでくださいよ、全然面白くないですよって、それは俺の義務だからね」

「そ、それで……?」

「もう一枚反省文書いた」

これでもう大丈夫ですよ。どんなに憂鬱でもこれ以下はいませんからね。誰だって元気になってくれる。後輩も元気に水曜日を乗り切ってくれる。

そう、僕は木曜日だ。命ある限りずっと悪意ある水曜日と戦っていく。でも、上司の手によってクビになって毎日が日曜日になったら、水曜日も仲間なので戦わない。