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桜の花びらたち

職場のYさんがワイセツな画像をネットに投稿しているらしい。そんな電撃的な噂が我が職場を駆け巡った。というか情報通の岡野という男から入ってきた情報なのだけど、とにかく衝撃的だった。

そもそも僕はこの現状のネット社会を憂いていて、例えば、様々なSNSなどにおいて、まだうら若い女性が自身の裸などを投稿してチヤホヤされているという状況を非常に残念に思っている。

確かに、ネット上でチヤホヤされようと思えば簡単である。裸の画像を投稿したり、ちょっとセクシーな画像を投稿したり、生脱ぎをする生放送をやったっていい、信じられない勢いで人が集まり、みんなチヤホヤしてくれるはずだ。姫として崇め奉られるだろう。けれども、それはその本人の魅力で人が集まっているわけではなく、あくまで裸に人が集まっているに過ぎないのだ。裸だって私の魅力よ、と思うなら続ければいいと思うが、僕はそうは思わない。

根本的に、僕は全ての人間が面白いと思っている。どんな人も、一生懸命に考え、真摯に向き合えば、裸なんて晒さなくても人を楽しませることができるし、誰かが褒めてくれると思っている。注目されたい!とパーッと脱いでしまうのはあまりに発展性がなく、悲しいことなのだ。真摯に向き合うチャンスを潰してしまっていやしないか。もちろん、真摯に自分のセクシーを公開し、人を楽しませている人を非難するつもりは全くない。むしろ尊敬する。ただ、安易にするのはちょっと違うような気がするのだ。

そういった桜の花びらたちが安易に自分の性を見世物にして、手軽に注目や賞賛を得ようとすることには残念な気持ちしか生まれない。それは本当に最後の最後、最後の手段に取っておいて、一生使わないものなのだ。

けれども、職場の人がそうやってるとなれば話は別である。

この世で一番興奮するものは何だと思う?そう、よくわかってるね、ちょっと知ってる程度の人のエロスだ。これがもう、この世で一番興奮する。

例えば、エロビデオやグラビアなんかのエロは、確かに綺麗な人だし、すごいエロいのだけど、しょせん、知らない遠い世界の人の情事だ。多くの場合が画面の向こう側で展開される世界で、あまり僕の私生活には関係ない。言うなれば、NHKあたりで貴重なバンドウイルカの交尾の様子をみているのとそう変わらない。

じゃあ、すごく身近な人のエロだったらどうだろうか。これはもう、全然駄目である。本当に身近な自分の肉親のエロスが見たいか?見たくない。遠すぎてもダメ、近すぎてもダメ、そこで最適なものが「ある程度知っている人のエロス」、ということなのだ。

そういった意味でYさんがワイセツな画像をネットに投稿している。これはもう、最大級に興奮すること間違いなしのお得な物件なのである。

これはもう死んでも探し出すしかない。そこそこ身近なYさんのワイセツな投稿を見つけ出すことができたなら、色々と向こう二年は素材に困ることないはずだ。絶対に見つける。できることなら米国のハッカーに依頼してでも見つけ出してみせる。

それから僕の大捜索が始まった。あらゆるSNSを捜索したが、どうやらYさんは警戒心高めらしく、発見することができなかった。なかなかネットに対する意識が高い。では友人から攻めていくかと、職場で仲良くしている同僚、こちらは意識が低かったようですぐに見つけることができた。そこから繋がりを探していく。なかなか友人が多いようで莫大な数だったが、片っ端から調べていき、それっぽいアカウントがないのかしらみつぶしにしていく。

探している途中で、別の同僚が明らかに僕と思われる人物の悪口をSNSで書きまくっているのを発見したが、まあその辺は御愛嬌。とにかく信念を持って探していく。すると、今度はまた別の情報が情報通の岡野から舞い込んできた。

「Yさんは最近よく秋葉原に行っていたらしい」

なるほどねえ。これはもう、コスプレ系のエロ投稿ですわ。ドーンと太ももとか乳房とか強調してますわ。ユウナのコスプレとかしてるんちゃうかな。絶対に探し出してやる。

もうこれは意地とか信念とか、そういった生易しいものじゃない。僕はYさんのエロに報いなくてはならない。今はただその一事だ。走れ!エロス!

そしてついにそのアカウントを見つけ、到達することに成功した。詳細は書くことはできないけどYさんと確信するに足る証拠が数多く見受けられるアカウントで、十中八九そうであると確信するものだった。ドキドキしながら、そのYさんとおぼしきアカウントの過去の投稿を眺めていく。今日は頑張ってちょっとエッチなのを、とかいって谷間とか見せてるんやろか、今日は眠いからちょっとだけ、おニューの下着です、とかやってるんやろうか、興奮と緊張で過呼吸みたいになりながら投稿をチェックしていく。ついにYさんの投稿画像がムリムリと画面に表示された。

「これが秋葉原までいっても見つけられなかった、石油ファンヒーターの取扱説明書です。ダウンロードできたよー!説明書なくしてタイマーの設定できなかったんだよねー。アドバイスしてくれた人、ありがとー」

と取扱説明書の写真が。

????!???????????!??

Yさんのワイセツ画像って、これトリセツ画像じゃねーか。

しかもYさん、色々な家電のトリセツを、またなくしたら困るからと画像にして連発で投稿しだしている。俺が探してるのはこんなもんじゃない。こんなもんじゃない。

けれども、失意と同時に少し安心した気持ちも生まれていた。確かにそこそこ知っている人のエロスは興奮する。でも、Yさんがそんなことをしていなくて良かった、という気持ちも同時に存在していたのだ。そう、彼女はそう簡単にエロスに手をかける存在ではなかったのだ。その部分は残念なような安心したような複雑な気持ちなのだけど、やはりトリセツで良かったのだ。彼女にワイセツは似合わない。

「これがデンマの説明書です」

家電のトリセツでも十分興奮するじゃねえか。