復讐代行サイトに自分への復讐を依頼してみた

※Numeri(http://www.numeri.jp)にて数年前に執筆した記事を再編する必要が生じたので、ほぼ同じ内容をまとめてこちらに掲載します。ブログ版としてお楽しみください。

 

人を呪わば穴二つ、という言葉がある。

これは呪いなどを行う呪術師が、呪い返しで自らの命も落とすことを予想し、呪いをかける際は対象者のものと自分のもの、二つの墓穴を用意させたことに由来する。

この言葉は、人を憎み、安易に復讐などを企てるのならばそれなりの覚悟が必要だ ということをほのかに伝え、僕らを戒めてくれるのだ。 「復讐」「倍返し」「リベンジポルノ」そんな言葉が安易に氾濫する昨今、 ここでもう一度冷静に考えてみよう。「復讐」とは一体なんなのか。

wikipediaによると、「一般にひどい仕打ちを受けた者が相手に対して行うやり返す攻撃行動の総称である」とある。やられたらやりかえす、そんな精神に基づく行動であり、プラスマイナスゼロ、とても合理的な行動である印象を受ける。

ストレスフルな現代社会。様々な要素があなたに襲いかかり、その繊細な精神を苦しめることだろう。その時、もしかしたらあなたは決意してしまうかもしれない。そう、復讐を。僕らが復讐に至る要因はあちらこちらに転がっているものなのだ。

例えば、仕事上のミスの責任をライバルになすりつけられたり。

例えば、職場の派閥争いに敗れ、閑職に追いやられたり。

例えば、職場の全員が参加する秋の行楽栗拾いツアーに自分だけ誘われなかったり。クソッ。

例えば、ネットサーフィンをしていたらかわいらしい感じで慕ってくれていて「はいっ!」とか返事も素直なかわいい後輩のツイッターアカウントを発見してしまい、読んでみると「あいつ、オデンの残りみたいな匂いがする」と日課のごとく僕の悪口を書かれまくっていたり。クソッ。なんだよオデンの残りって。

例えば、男性社員が一列に並んでるところに、「私、マッサージの勉強してたことあるんですよ、みなさんをほぐしちゃいます~」とかいう女子社員(ブス)が腕まくり。端から順番に男性社員の肩を揉み始めたのだけど、極めてナチュラルに僕だけとばされて揉まれなかったり。

例えば、職場の親睦バーベキューの企画が持ち上がって、「参加する方はこの名簿に〇印をつけてください。不参加の方は✖を」とアナウンスされ、おいおい、その日は日本ダービーの日だよ、ちょっと観戦に行かないと馬たちが寂しい思いをするからなー断腸の思いで✖つけなきゃなーって名簿見たら、最初からその名簿に僕の名前がなかったり。クソッ。仕事辞めたい。

とにかく、復讐とは様々な場面で決意しうるものなのです。人の心はそう強く頑強にはできていませんから、必ずどこかで吐き出さなければなりません。そう、復讐もその一つの可能性なのです。僕も…アイツらに…復讐…したい。

 

◆復讐の法的位置づけ

人を呪わば穴二つ。

では、本当に復讐を決行した場合、どのようなことが起こるのか考えてみましょう。まずはじめに考えられるのが、「復讐は新たな復讐を生む」ということです。

他者に復讐を行った場合、自分もまた復讐の的になることを危惧しなければなりません。復讐を受けた人はあなたに対して恨みを持つからです。復讐するならば復讐される覚悟が必要なのです。

また、仇討ちが正当化されていた中世日本と違い、現代社会において復讐が犯罪にならないわけがありません。人を呪って復讐するなら墓穴を二つ掘れ。自分用の墓穴を準備するという意味でも、この復讐の刑法的位置づけについて考えてみましょう。

一体全体復讐とはどんな罪に該当するのだろうか。そんな気持ちで「復讐」をキーワードにネットサーフィンをしていると以下のようなホットなニュースが飛び込んできました。

復讐代行サイト:運営者を名誉毀損容疑で逮捕 全国初

「復讐(ふくしゅう)」の依頼を受けて女性に中傷メールを送信したとして、広島県警サイバー犯罪対策課などは23日、復讐代行サイトを運営する中国籍のXXXX容疑者(31)を名誉毀損(きそん)容疑で逮捕した。同容疑者は容疑を否認している。県警によると、ネット上 で「復讐屋」と言われる業者を摘発するのは全国で初めて。

 

「復讐」や「毀損」にだけフリガナがうたれているのがどういう基準なのかさっぱり分かりませんが、復讐を行った人が逮捕されたというホットニュースです。

「復讐代行サイト」については後段で述べるとして、ここで注目すべきは、逮捕容疑が「名誉棄損」であるという点です。あくまでも復讐をしたから逮捕されたのではなく、名誉を棄損したから逮捕されたということなのです。

刑法の条文を舐めるように眺めてみますと、どこにも「復讐」を禁じた部分はありません。じゃあ、法律で禁止されてないのだから復讐やり放題じゃん、と思ってしまうかもしれませんが、実はそうではありません。それではあまりに短絡的です。僕はあえてこう考えます。 実は刑法全体が復讐行為を禁じているのではないか、と。

刑法とは、悪いことをした人を裁くためのものであることがほとんどです。悪いことをした人を裁くための法律、これは言い換えると、悪い奴は俺たちが裁くからお前らは勝手に裁くな、と言っているわけです。

これはよく考えると当然のことで、誰彼構わず「復讐」という名の裁きを行っていたら、トゲトゲの肩パットをつけてバギーに乗ったモヒカンが跋扈する拳だけが正義の世界に早変わりしてしまうのです。種籾を守る老人も殺されてしまう。

悪いことは刑法によって裁くからお前は勝手に復讐するな、とても頼もしいですが、逆に言うと、刑法によって相手を裁けないことを恨みに思って復讐を決意することは、完全にお門違いの恨みであり、復讐を決意するよりもっと自分自身を見つめ直した方がいい、ということなのです。

例えば相手にぶん殴られて怪我をした、悔しい、復讐したい、という場合、これは完全に傷害罪ですから自らの手を汚して殴り返したりなどの復讐をするより、きちんと法律に則って裁いてもらうべきなのです。

栗拾いツアーに自分だけ誘われなかった。自分だけ肩揉みの順番を飛ばされた。これらは誠に口惜しくて悔しく、個人的には復讐に値すると思うのですが、別に栗拾いに誘わないことは、「栗拾い誘わない罪」などがあるわけではな く、刑法犯罪ではないですから、復讐を企てること自体がお門違い、というわけなのです。恨みに思うより、誘われるように頑張ったほうが良いのかもしれませんね。

 

◆復讐代行サイトという存在

掃除、洗濯、料理、家事全般を代行してくれるサービスは数多く存在します。基本的にはちょっと面倒だなあ、って思いがちな行為をお金を払うことで代わりにやってもらうサービスなのです。

中には「ナンパ代行」という良く分からないサービスもあり、「イケメンがあなたの代わりに女性をナンパします」という、それって女がイケメンとねんごろになるだけじゃん、と言わざるを得ないものも存在します。

そんな様々な代行サービスに混じって、もちろん「復讐代行」なるサービスも存在します。試しに「復讐」で検索してみると、まあ、出るわ出るわ、中には「今日はミキちゃんと一緒に国際コミュニケーションの講義受けました。難しくてわかんな~い、でもしっかり単位とるぞって決意しました。家に帰ったらきっちり今日やったとこ復讐するぞ~」って間違えている感じの女子大生のブログがヒットしたり、そのコメント欄に「マナミちゃん偉いね、頑張って単位とってください。外を見てごらん、月が綺麗だよ。一緒の月を見ているんだよ、ロマンティックだね」って気持ち悪いコメントをつけてるオッサンを発見したりと、この辺はビックリするくらい全然関係なかったですね。

とにかく、まず驚くのは、「復讐代行サイト」なる聞きなれない単語。どうやら調べてみると読んで字の如く依頼をすれば復讐を代行してくれるサイトらしいです。

あいつムカつくから復讐してやろう!でも、面倒だし自分の手を汚したくはない。それにもし復讐したのが自分だってバレたらこっちも復讐を受けてしまうかもしれない。

そんな気持ちの時に頼もしい味方、復讐代行サイト、あなたに成り代わって復讐します!こんなノリなのかもしれません。

そう、時代はインターネット戦国時代。便利さを追求した人類はついに「復讐」すらもアウトソーシングする時代になったのだ。現代人は人を呪うのにも復讐するのにも穴を二つ掘らない。マウスでポンッとクリックするだけなのだ。 そこに覚悟はあるのだろうか。それは復讐と呼べるのだろうか。興味が尽きない。

 

◆血塗られた復讐

この広いインターネット大海原には「闇サイト」と呼ばれるサイトが数多く存在する。

「闇サイト」とは、犯罪や反社会的行為を誘引もしくは請け負うことを目的としたサイトの総称であり、おおっぴらに公表できない内容を扱うことが多い。もちろん、復讐代行業者もこれらの闇サイトに属する。

ここで一つ疑問として湧き上がってくるのは、検索してポンッと出てくるサイト、それこそ「闇サイト」で検索して出てくるサイトに本物の闇サイトはあるかということだ。そんなウチの母ちゃんでもちょっと教えたら辿り着けるようなサイトを闇サイトと呼んでも良いものなのだろうか。

否。断じて違う。闇サイトはもっと到達困難で、それこそアクセスしただけでIPぶっこ抜かれたりとか常連っぽ いハッカーに尻の毛まで抜かれて身も心もボロボロにされるとか、そういう地獄の修羅場のような雰囲気を醸し出している必要がある。「お母さんそういうの全然わからへんわ、なんや怖いし」と言わしめる難解さと怪しさ、圧倒的な存在感が必要なのだ。

つまり、検索して簡単に辿り着けるサイトは断じて闇サイトではない。それと同じで簡単に辿り着ける「復讐代行サイト」にも本物の復讐代行サイトは存在しないんじゃないだろうか。

もっとこう、昔のエロ動画サイトみたいに、「ほう、テニスサークルのお嬢様が試合中に我慢できなくなってXX しちゃう.mpegとな」とクリックしてみたら別のエロサイトや広告に飛ばされて、最終的にお目当ての動画にはたどり着けず、その際に目についた別のエロ 動画に興味が移ってまたクリックする、みたいな無限のラビリンスを経て到達するサイトこそ真の闇サイトなのではないだろうか。

ということで、本当に苦労して探しましたよ。復讐代行サイトを探しましたよ。そして見つかりました。それこそ検索して出てくるお手軽なサイトでも良かったんですけど、どうせ探すならガチもんが良いですから、あらゆるリンクを辿り、ウィルスとかに感染しながら、時には「今日は渋谷でノブ子とランチ、みてみて、疲れてこっちの目だけ二重になってるの~」とか書いてるアッパーパーな女子大生のブログとか読み込んで隠しリンクとか探しました よ。

中には、「携帯電話でしかアクセスできないサイトのほうが闇度が高い」なんていう、「ジーンズはいてる女はヤレル!」くらいの情報を信じて携帯サイトにもアタックしました。そしてついに、これはちょっと本物なんじゃないだろうか、そう思うしかない復讐代行サイト を発見するに至ったのです。

 


※イメージです

闇サイトらしく、ページの背景はきちんと黒です。プリンターで印刷したら黒のインクだけすぐになくなりそうなほどの黒背景、これがなくちゃ闇サイトとは言えません。

 


※イメージです

ドデーン、とドクロマークがお出迎え。ゾクゾクしてくる、これが闇サイトの醍醐味やで。身震いしてきた。

 


※イメージです

「血塗られた復讐という華を咲かせる輪舞曲(ロンド)」

良く分からない煽り文句もお出迎え。復讐なのか華なのか輪舞曲(ロンド)なのか良く分かりませんし、微妙に文章の意味も分かりませんが、なんだか怖そうです。すごい復讐をしてくれそう。輪舞曲にフリガナをうってくれてるところも顧客想いな印象を受けます。アフターサービスがしっかりしてそう。安心して復讐を任せられそう。

 


※イメージです

「当サイトでは復讐を完璧に遂行します。特殊工作員、元傭兵、有名探偵、総合格闘家が任務にあたり、確実に復讐を遂行します。」

特殊工作員!元傭兵!有名探偵!総合格闘家!が任務に!総合格闘家だけ毛色が違うような気がしないでもないですが、これらの重厚なメンツ達が繰り広げる復讐劇、とんでもないことになりそうな予感がビンビンしてきます。

途方もなく残虐な復讐を依頼できるのかもしれない。なにせ傭兵ですからね、傭兵。もしかしたら相手を殺したりとか、大怪我させたりとか、それこそ無実の罪で投獄させたりとか、会社を解雇させたりとか、そんなすごい復讐をするのかもしれません。さすが闇サイトですな!と唸りつつ「復讐メニュー」を開きました。

復讐メニューはこれらの復讐が可能ですという一覧になっていて、具体的な料金が書かれているわけではありませ んが、「リーズナブルに復讐50万円より」という魅惑的なキャッチが書かれています。最低料金50万円、復讐にあたるのは特殊工作員や元傭兵、こりゃとん でもない復讐をするに違いありません。おいおい、手加減してくれよー、怖すぎるよー、そんな気持ちでゴクリと唾を飲みながらページを読みすすめました。いったい、そこにはどんな残虐な復讐が!

 




「無言電話する」

俺でもできるわ。

あのね、あんまこういうこと言いたかないですけど、元傭兵まで駆り出してきて無言電話はないですわ。元傭兵が 一生懸命無言電話かけてる光景を思い描いたらなんか泣けてきましたよ。「リーズナブルに復讐50万円より」の文言を思い出すと、これが50万円。ぼったくりすぎじゃないか。

どうやらこの一覧表、ニュアンス的に表の下に進むほど高価で高度な復讐になっている様子。そ、そうだよね、傭兵までいる復讐サイトが無言電話だけじゃないよね。下に進むともっと濃厚で残虐な復讐があるんだよね。頼んだぞ、傭兵、もっと残虐なのを!祈るような気持ちでページを読み進めました。

 




「家の塀に落書きする」

こんなのってないよ!こんなの傭兵とか特殊工作員の仕事じゃないよ!

それでももっと進めばきっと、さすが傭兵と唸るしかない復讐業務がでてくるはず。傭兵まで経験して、やってる ことが無言電話に落書きじゃあ悲しすぎる。もっと、過激な復讐ができるといいね、まだ見ぬ元傭兵に思いを馳せ、彼の夢が叶うように願いします。そして飛び 込んできた究極の復讐業務!

 




「家の敷地内にゴミを捨てられる」

なんでここだけ受身なの。

いやね、もう内容がショボイのはいいよ、いい。納得いかないけど納得した。でもね、ここまで「無言電話する」「落書きする」と能動態だったのに急に受動態になっている意味がわからない。嫌がらせされとるやん、元傭兵。

真っ暗な闇の中で正座して無言電話をかけまくる元傭兵の家の敷地に近所のおばちゃんの手によってガンガンゴミが投げ込まれるシーンを想像して泣けてきた。

さすがにこれは元傭兵が不憫すぎると思いながら読み進めていくと、復讐メニュー下部には「特別復讐メニュー(特別料金)」のリンクがあるではないですか。

 



これは……。期待して……、いいのかな!?

さすがに特別という甘美な響き。きっとここにはそれこそあまり大きな声では言えないですけど、「殺人」だとか「大怪我」とか「放火」みたいな闇サイトならでは、元傭兵もニンマリの重厚な復讐メニューが鎮座しているはずです。

やばい、いますごい闇に触れている。きっと「相手を殺します」とか見なきゃよかったと後悔する過激な復讐メニューがそこにはあるはず。やばい、怖い、でも見たい!震える手でリンクをクリックしました。

 




「黒魔術で相手に呪いをかけて嫌な気分にさせる。(黒魔術は実費別料金)」

ほんと、ぶっころすぞ。

お前ら元傭兵の気持ちになってみろ。あちこちの軍隊で殺人術を学び、血しぶきと硝煙の中をくぐり抜けてきたような男だ。その男が闇サイトに属し、そこで復讐代行に手を染める。「悲しいな、戦争も復讐も変わりゃしねえ」とか決め台詞だって用意しているかもしれない。

それが真っ暗な部屋で正座して無言電話かけて、落書きしに行ってふなっしーの絵でも描いて、家にはガンガンゴ ミ投げ込まれて、その横には黒魔術の魔法陣ですわ。別料金実費だからロウソクとかトカゲとかの領収書もしっかりもらってな、「宛名は傭兵でお願いします」 とかな。元傭兵がお前らに何したんだよ。もう彼を許してやれよ。

 

◆誰に復讐をするのか

さすがに最大級の復讐が黒魔術ではちょっと物足りないというか、それ以上に冷静に考えたらわざわざ金払って代行してもらわなくても自分でできる。たぶんこのサイトはダメなので、もっと過激な復讐代行サイトを探します。

今僕が求めているのは、血湧き肉踊るような過激な復讐。あまり大きな声で言えませんけど、高い金取って復讐を代行するなら、こう、犯罪的なことをして欲しい、そんな欲求があるのです。今まさに闇の深淵に立っている、そんな気持ちにさせてくれる復讐代行サイトです。

またもやネットサーフィンですよ。怪しげなサイトを巡り、動画⑤、動画④、動画①、動画②、動画③とクリックし、全部広告じゃねえかと叫んだり、意味のわからないウィルスに感染してホーム画面が外国の検索サイトに勝手に変わっていたり、様々なドラマを経て、つい に過激な復讐代行サイトにたどり着いたのです。

 

一番基礎となるリーズナブルなコースが大怪我させるですからね。あまりに過激すぎて心臓がバクバクいってしまいます。どこぞの元傭兵に見せてやりたい。

 

キテル、キテルよ!こんな恐ろしいことを平気で書いちゃうなんて!彼の気概、熱い意志がビンビンに伝わってきます。

大怪我をさせる、社会的抹殺ときたらそれ以上のコースはもうこれしかありません。これ以上の復讐メニューといったらあれしかないでしょう。ワクワクしながらリンクをクリックしました。

 



「殺害(要相談)」

ドーン!

これぞ闇サイト、これぞ復讐代行サイト。

(要相談)ってなってるところが微妙に面白くて、そりゃそうだろ、殺害レベルのことを相談もなしに勝手にやられたら怖いわ、とか思いつつも、ついに目の前に現れた「殺害」の文字にワナワナと身震いしていました。

しかし、ここで大きな問題に直面します。

ここまで必死に復讐代行サイトを探してきて、お目当てのものを見つけるに至りましたが、そもそも僕は誰に復讐をしたかったのでしょうか。

栗拾いツアーに誘ってくれなかった職場の同僚?

マッサージで僕だけ順番を飛ばしたブス?

おでん?

特塩からあげ弁当をオーダーしたのにのり弁当を持ってきたほっともっとの店員?

どれもこれも冷静に考えると復讐を企てるほどの恨みではないのです。職場の連中だって余った大福とか僕にくれることあるし、寝不足で目を真っ赤に充血させていると「どうしたの?死にかけのウサギみたいでキモいよ?」と心配してくれる良い一面もあるのです。のり弁 当だって食べてみたらすごい美味しかったし、オデンの残りの匂いがすると悪口を書いていた後輩も、でもオデン食いたいなってその後にフォローしてくれてい た。

結局ね、僕は人を恨めやしないんですよ。人を恨むだけの度胸なんてない。大学生時代に裏ビデオを注文して、「さんまのまんま」が録画されただけのビデオテープが送られてきた時も裏ビデオ業者のこと恨めなかった。

それはもしかしたら他人を傷つけるのが怖いというより、それによって生じる反撃や責任の発生が怖いだけのなのかもしれません。そう、僕は墓穴を二つ掘る勇気がない、とんだチキンなのかもしれません。

それに前述したとおり、法律が自分なりの反撃や裁きを禁止している以上、復讐を実行した場合、必ず何らかの罪に問われます。それを代行として依頼した場合でも「共犯」や「教唆」といった罪に問われるでしょう。そう、人を恨むこともなければ、リスクも高い、誰かに依頼してまで復讐する理由は皆無と言っていいのです。

でもね、あまりこういうこと書いちゃうと良くないかもしれませんが、ぶっちゃけ復讐の依頼はしてみたいじゃないですか。この記事を書くために依頼してみてその顛末を報告してみたいじゃないですか。

人を傷つけるほど恨んじゃいない。でも復讐代行は依頼してみたい。相反する二つの思考がぶつかりあった時、一つの考えが浮かんだのです。

そうだ、自分への復讐を依頼すればいいじゃん!

自分で自分に自分への復讐を依頼する。こうすればいたずらに人を傷つけることもない。それでいて実際に復讐代行をしてみるという目的も達成できてこの記事も書ける。

ついでに、どっかで「本当に恨むべきは他人でも社会でもない、自分自身なんだ。(キリッ)」みたいな男前っぽい決め台詞を言うチャンスもあるかもしれない。それ聞いた女が素敵ブシャーとかなるね。きっとなるね。

とにかく、こうして僕は復讐代行サイトを通じて自分で自分への復讐を依頼することを決意したわけなのです。やられてないけどやり返す!倍返しだ!自分に!

 

◆恨みの情念が足りない

そうと決まれば早速復讐依頼です。

この復讐代行サイトには「復讐依頼フォーム」なるものがありまして、復讐をしたい相手の名前、住所、主な出没地域、希望する殺害メニュー、復讐をしたい理由、を書く欄があります。

ここでは復讐したい相手は他でもない僕自身ですので、迷うことなく自分の本名と住所をぶち込みます。

 


※イメージです

依頼主の情報としては名前とメールアドレスのみらしく、本名入れると依頼主とターゲットが同じだってバレちゃうので「pato」とハンドルネームを入力し、メールアドレスも捨てアドじゃないやつを入力します。

当然のことですがターゲットと依頼主、ちゃんとわかれてて親切なフォームになってますが、さすがにどちらも同一人物の情報だとは思うまい。まいったか。

入力終了。

オラッ!死ね!pato!と叫びながら送信ボタンを押します。

 

これで一安心。あとは殺害を待つだけ、あ、でも(要相談)ってなってたから最初に相談のメールとかくるのかなとワクワクしながら待ちました。

そしたらアンタ、待てど暮らせど返事が来ないじゃないですか。一週間くらい待ってみたいんですけど殺し屋みたいなのが殺害しにくるわけでもないですし、レーザーサイトで眉間のあたりに照準を合わせられることもない。それどころかメールの返事すらないんですよ。

こりゃ一体全体どうしたことか。まさかメールすら来ないとは思わなかった。だって、復讐代行業者からみたら僕は大切なお客なわけでしょ?そらもう「もう我慢できない!」ってケロッグみたいな勢いで業者から連絡があるものだと思ったのに。

例えばさ、引越し見積もりサイトに「ちょっと引越ししたいんだけど」って送ってご覧なさい、「何卒、我が引越しセンターに!」「我社が一番安いです!一度お電話だけでも!」「キリンさん」って狂ったようにメールきますよ。商売とはそうあるべきなんですよ。

じゃあなぜこの復讐代行サイトは全くもって連絡をしてこないのか。ここで一つの疑念が浮かび上がります。

恨みの情念が足りないのではないか?

普通に考えると、いくら商売とは言え復讐を代行するとなるとかなりのリスクが伴います。それにやはり他者を傷つけるわけですから、真っ当な精神の持ち主なら心理的障壁が高すぎておいそれと手が出せるものじゃない。

じゃあ、それらを乗り越えて復讐代行に突き動かす彼の心情とはなんなのか。それは「誰かの復讐の手助けをしたい」そんな熱い想いじゃないだろうか。

彼は何らかの悲しい過去を背負っているのかもしれない。憎しみに身を任せ血塗られた復讐という華を咲かせる輪舞曲(ロンド)を舞い踊った。復讐行為の悲哀や空虚さ、後に残されるやり切れない気持ち、それらを全て理解した上で悲しみを背負うべく復讐代行業を始めた のかもしれません。こんな想いをするのは俺だけで十分だ。

そんな彼に対して誰が軽はずみな気持ちで復讐を依頼できましょうか。それも自分自身の復讐を依頼するなど明ら かに恨みの情念が足りない。彼は僕の気持ちを見透かしているのです。そんな軽い気持ちで依頼したって俺は動かないぜ、もっと俺を動かすだけの恨みのエネル ギーを届けな、お前の恨みの声が聞きてえんだ、そう語りかけているのかもしれません。

しっかりと恨みの気持ちを書きます。

 

気持ちが伝わるようにいかに恨んでいるかを力説しているのですが、これ、僕に対する言葉ですからね。自分で自分の悪口を書くのはなかなかエネルギーを要する作業です。

なんとか悪口を書き綴り、再度送信します。今度こそ、きっと、彼からの返事が来るはず。大学進学で春から上京してしまって、メールの返事が段々と遅くなり、夏を境にすっかり返事がなくなってしまった彼氏を思う雪国の女の子の気持ちで待ちました。

それでも返事はこない。まだ情念が足りぬと申すか。

この際、仕方ないですからあることないことでっち上げて恨みを書き綴るしかありません。

 

何度も申し上げますが、これは自分自身に対する悪口です。なんか書いてるうちにこのpatoって対象者のこと、本当に許せなくなってきた。それでも返事は来ない。まだ足りぬと申すか。思いつく限りの悪事を羅列するのですが、

 

もう訳のわからないめちゃくちゃなことに。

ここで一つの考えが浮かび上がります。もしかしたら情念とかそういった類の話ではなく、これは復讐代行業を営む彼自身の心の問題ではないだろうか?

彼自身、確固たる信念を持って復讐代行業を営んできた。様々な復讐の手伝いをし、そこで彼は気づいたのだ。この世は悪が笑い、正義が涙する不条理な社会であるということを。同時に自分自身の行動がちっぽけなものに思えて虚しさを感じたのかしれません。そう、彼は 今迷っている。もう復讐代行業から足を洗おうと決意している。けれどもこの両の手についた数多くの血液は拭えない。血なまぐさい臭がプンプンしやがる。こ れは俺の罪だ、洗っても落ちやしない俺の罪(カルマ)。ああ、この仕事を始めた時から覚悟していたさ、俺が行き着く先は地獄しかないってな。

そんな風に迷っているのかもしれません。ここは彼を奮い立たせるメッセージを送りましょう。

 

今思うと、最後は「立ち上がるんだ。」よりも「立ち上がるんだ!」の方が勢いがあって良かったですね。そっちのほうが奮い立たせる感じが出たと思う。 結局、それでも返事はありませんでした。単純にこのメールアドレスが死んでるんだわ。ここ、もう営業してないんだろうね。

 

◆復讐代行サイトの真実

様々な復讐代行サイトを巡り、自分自身への復讐を本名と住所を添えて依頼する。世の中には数多くの不毛な行為が存在しるのだけど、これ以上に不毛なものってあるのだろうか。

数多くのサイトを巡り依頼メールを送るものの、宛先不明で戻ってきたり返事が来なかったり、「聡子です。今日、小さなアリが私の乳首を這い回ってました、アフン!」っていう意味も意図も必要性も不明なスパムメールが来たりと成果が得られない状態に。

けれども、そんな中にあって一つだけ返事が頂けたのです。光明とはこのことでしょうか。

 

「○○○○への復讐代行依頼承りました。殺害は1000万円、殺害に至らない実力行使は400万円で請負います。嫌がらせは30万円からです。半分を銀行振込、前金で頂きます。キャンセルはできません」

なるほど、そういうことか。

まず、このメールのポイントですが、殺害は1000万円それ以外は400万円という値段設定です。非常に高額な値段設定と思われるかもしれませんが、逆の立場で考えてみてください。あなたは1000万円貰って人を殺せますか?

人によっては殺せると答えるかもしれませんし、いくらもらっても無理と答える人もいるでしょう。しかし、業務として考えた場合、あまり有効な値段設定とは思えません。効率が悪すぎます。

では、この殺害は1000万円、それ以外は400万円という値段設定はなんなのか。その答えは次の部分にあります。

 

「半分を前金として頂きます」

復讐を実行に移す前に半額は前金で頂く、つまり殺害なら500万円、それ以外なら200万円、最初に払えということです。これは殺人に付けられた値段ではありません。ある程度のお金がある人が泣き寝入りするギリギリの金額、ということです。

つまり、これらの業者は初めから復讐を代行する気などサラサラないのです。そりゃ誰だってリスクは嫌で、恨みもないのに殺害や暴行なんてしたくないもの、やらなくて済むならやらないでいたいはずです。

そこで、前金として半分だけを頂いてあとはドロンというわけなのです。普通は、そういった詐欺にあったら警察 なりなんなりに駆け込むわけですが、ここでは復讐を依頼したという負い目があります。殺害依頼ともなるとかなり深刻な事態になりますから、それらを考慮し て払った金を諦められるか、そのラインが500万円と200万円なのでしょう。

 

「キャンセルはできません」

何気ない一言ですが、ここにも脅しの意味合いが隠されています。かなり強気ともとれるこの発言の裏には次のような真理が隠されています。

あなたはターゲットの名前と住所を入力して復讐を依頼しました。つまり私はそのターゲットにあなたから依頼があったということを教えることもできるのです。さあ、どうする?知られちゃったら大変なことになるね?もう逃げられないよ?

そんなところでしょうか。

このような脅しになってくることは容易に想像できるのですが、誰もが500万円、200万円といった高額なお金を払えるわけではありません。

 

そういった人向けに「嫌がらせで30万円」というリーズナブルなコースもあるのです。根こそぎ金を脅し取る、そんな気概が伝わってきます。

どうしよう、憎きあいつへの復讐を依頼したら高額なお金を請求された。それも半分は前払いって言われてる。前金だけ持ち逃げされそう。でも断れない。だって、復讐相手に教えるって脅されてるもの、すぐに私からの依頼だってばれちゃう!どうしよう!軽い気持ちで復讐を依頼したらこんな事態になりかねません。つくづく、穴は二つ掘っておかねばならないのです。

僕も一瞬、やばい、復讐相手に知られる!どうしよう!と焦ったのですが、よくよく考えたら僕の場合、復讐相手も自分だった。知られても屁でもない。というかもう知ってる。

とりあえず交渉してみましょう。

「前金はお支払いできませんが、どうしても復讐したいのです。なんとかおねがいできませんか?」

何も恐れるものはありませんのでグイグイ攻めます。

「すべて後払いということですか?お受けできません。キャンセルもできません」

受けない、でもキャンセルもダメ、どうしたいんだよって思うのですがお金を払えないものは仕方ありません。正直にそのことを伝えます。

「お金が払えないんですよ」

正直に伝えます。何事も正直が一番。

「どのコースをご希望ですか?嫌がらせコースなら安いですよ。落とし穴掘ったりとか30万円でできます」

なんなんだ、こいつのセールストークは。落とし穴掘るだけで30万円は高いだろ。ここは強硬に主張しましょう。

「殺害で」

またもや、自分で自分に殺害依頼。自殺志願者か。

まあ、これには僕も狙いがありまして、後払いで自分に殺害を依頼する、1000%殺害はされないでしょうけど、まかり間違って成功したとしても、もう僕はこの世にはいなくて瞬く星空から笑顔で皆さんを眺めてますからね、成功報酬の1000万円を払う人はどこにもいない。自分でもこんなに経済観念が発達していたなんて驚きです。家計を節約して驚きの節約術ですよ。

これには驚くくらいの素早さで返事が返ってきました。

「できません」

ホント、さっきから「できない、やれない」ばっかりじゃないか。本当にやる気あんのか。代行業者としての情念が足りないんじゃないか。

ここでちょっと引く素振りを見せてみましょう。

「じゃあキャンセルします」

「できません」

「キャンセル」

「できません」

良く分からない押し問答が何度か続きます。「キャンセル」に対して「できません」の一点張り。ちなみに、字面が似てるから

「キャンギャル」

って紛れ込ませてみても、

「できません」

て返ってきました。たぶん「キャンユーセレブレイト?」って送っても「できません」って返ってくると思う。

そして、ついに相手が伝家の宝刀を抜きます。

「よろしいんですか?お相手に依頼があったことを伝えますよ?大変驚かれると思います」

キタキタキタ!ついに直球で脅してきやがった。何度も言いますけど、伝えるべきお相手は他でもない僕自身ですからね。まさか、自分で自分の復讐を依頼しているとは思うまい。

「かまいませんよ」

自信の返事。それに対して彼は、

「えっ!?」

よほど意外だったのか、すごい素の返事がきた。えっ!?じゃねえよ。

「伝えてもらって構いませんよ。むしろ伝えて欲しい」

ここは一気に攻め込む場面だと判断して僕はグイグイと攻め入ります。

「冷静になってください。これは遊びではありません。復讐ですよ。復讐を依頼したなんて相手に伝えたらあなたの立場が悪くなりますよ」

別に教えてもらっても一向に構わない。あ、そう、知ってたけど、依頼したの俺だし、くらいのもんなのですけど、ここまで僕の立場を案じてくれるとは、そんなに悪い人じゃないのかもしれません。親身になってくれるいい人なんじゃ……?

しかしまあ、いくらいい人だと言っても先程まで脅迫しようとしていた人物です。ここはちょっと切れた感じを演出してみましょう。

「いい加減にしてください。さっきから聞いてれば前金だとか相手に教えるだとか、本当に復讐を代行する気あるんですか!?やる気あるんですか!?」

ちょっとキレ気味に質問してみます。さすがに復讐を代行する気がないとは言わせない。きっと代行する気満々みたいな返事が帰ってくるはずです。

「いい加減にしてください。そもそも、復讐とは人に頼ってやって もらうものではありません。自分の手でやりなさい。そもそも、こんな依頼するってことはあなた相当陰湿な性格でしょ。だからこんな依頼をするところまで追い詰められるんですよ。あなたが周りと上手にコミュニケーションできないのが全ての原因じゃないんですか?それで復讐を依頼だなんて、そういうのを逆恨みっていうんですよ。恥じなさい」

説教されてる!すげえ説教されてる!しかも結構傷つくこと言われてる!だいたいな、質問に対して説教で返すなんて、おまえはYahoo知恵袋か。それに内容も凄まじく、自らが運営している復讐代行業を全否定。間違ったことは言ってないと思いますけど、それを代行業者のお前が言っちゃおしめえだよ。

まあ、結局、こういった復讐依頼をネタにした脅迫で金をせしめる、もしくは前金だけ受け取って姿をくらませるのが主目的で、復讐行為を行うつもりはサラサラないのでしょう。

ちなみに業者の方は怒りが収まらなかったらしく、

「大体あなた、真剣に依頼してないでしょ?全然深刻な恨みが伝わってこないもの。面白半分でやってるだろ?」

とか送ってこられました。

ふざけるんじゃない。

人がどんな気持ちで自分への殺害依頼を出したと思ってるんだ。おもしろ半分どころの騒ぎじゃない。全部だ!おもしろ全部だ!

「おもしろ全部ですよ。大体、復讐ターゲットも僕のことですし。自分で自分に依頼してました。だから脅迫されてもへっちゃらなんです」

と、ここでネタばらし。これにはサムも苦笑い。仕掛け人も全員登場してきて大団円。

とはならず、なんかすげえ怒ってて

「そんなことしてなんの意味があるんだよ!」

って至極ごもっともなことを言っておられました。

最終的にはすげえお怒りになられてて、

「お前の名前も住所もわかってる、復讐しにいくからな」

ってなってました。ねえ、前金は?前金はいらないの?得しちゃった!

 

◆まとめ

・復讐、その行為の多くは何らかの犯罪行為となる可能性がある。そそしてそれらを依頼することも同様に犯罪行為となる可能性がある。

・一部の代行業者は、元傭兵にイタズラ電話や落書きをさせ、家をゴミ捨て場にして黒魔術させている。

・復讐代行サイトの中には、前金をせしめて逃げることを目的にした業者や、依頼自体をネタに脅迫することを目的とした悪質なサイトがある。

・自分自身を殺害依頼するとすげえ業者が怒る。

・コミュニケーション能力が低いから栗拾いツアーに誘われない

ということが分かりました。

ちなみに、復讐代行業者が僕を殺しにやって来る!と病的な強迫観念みたいなのに襲われた僕は、代行業者を迎え撃つために落とし穴を掘る!人を殺せるくらいの落とし穴を掘る!とちょっと異常な状態になったんでしょうね。近所のババアが見守る中、

アパートの前の自分の駐車スペースに穴掘ってました。

 

ちょっと掘ったところで我に返ったんですけど、こんな病的になるくらいなら人を恨むもんじゃないですね。本当に恨むべきは他人でも社会でもない、自分自身なんだ(キリッ)。

まあ、ぶっちゃけるとオチつけるために脈略なく無理やり穴掘りった感じなんですけど、やっぱ穴は二つ掘ったほうがちゃんとオチましたよね。 穴だけに。