青春18キップを使えば2370円で東京から小倉までいけるらしい

どこか遠くの町までいきたい。そんな気持ちになることはあるだろうか。きっとあるはずだ。え?ない。いやいや、あるはずだ。うん、ある。絶対ある。あるの。いいから、あるって体で話を進めようよ。とにかく、みんな遠い街に行きたい思いを抱えているはずだ。

しかしながら、遠くと言っても具体的にそれはどこなのだろうか。もちろん飛行機を使えば海外だろうがなんだろうが死ぬほどの遠くに行けてしまうが、それは何か違う。もっとこう、旅情的なものを感じつつ、遠くに行ってみたい気持ちをみんな抱えているのだ。え?ない?うっせえな、あるんだよ。

そうなると、新幹線や何かの高速な移動手段も何か違う。なるべく安く、旅情を感じながら遠くまで行ってみたい。その思いを叶えてくれるのは青春18キップだった。ここで青春18キップのルールについておさらいしておこう。

  • 利用期間は学生・生徒がおおむね長期休暇(春休み・夏休み・冬休み)に入る期間で、その開始約10日前から終了日の10日前まで発売される。
  • 1枚で、利用可能期間中の任意の日に5回まで利用できる。5回分は一度に連続して使用しなくてもよく、有効期間内であれば別々の日に1回ずつ使うことができる。
  • 1回分は原則乗車日当日限り有効で、乗車日内(0時から24時までの間)であれば、何度でも乗降や途中下車ができる。日付をまたいで運転する列車については、0時を過ぎて最初に停車する駅まで有効
  • 値段は5枚綴りで11850円
  • 基本的にJRの普通列車、快速列車で使用できる(一部例外あり)

その日の始発から0時を過ぎるまで乗り放題の乗車券で、それが5日分セットになって11850円である。ということは、1日当たりに換算すると2370円だ。それでどこまでもいけるというのだから、なかなかお得だ。

では、その2370円、つまり、青春18きっぷ1日分でどこまでいけるのか。調べてみると、東京駅から出発した場合、どうやら福岡県の「小倉」まで行けてしまうらしい。恐ろしいことだ。九州まで行けてしまう。ちなみに、東京-小倉間を新幹線のぞみを利用すると22000円くらいかかる。それが2370円で済むのだから、それを利用しない手はない。

ということで、みんなのどこか遠い街に行きたいという旅情を代表して、青春18きっぷ1日分だけを握りしめて、最長到達点である小倉を目指してみた。その旅の記録を記していきたい。

 

東京駅(東京都)4:55

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 我が家から4:55に東京駅に行く手段はなかった。なので前日夜に東京駅に赴き、八重洲口周辺の個室ビデオで一夜を明かした。その個室ビデオの料金がオールナイトで3000円だった。既に交通費を上回る出費である。なにやってるんだろう、俺。

JR横須賀線久里浜行きに乗車する。トイレが付いている列車だったので安心である。

 

品川駅(東京都)5:04

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 9分ほどで品川駅に到着する。ここでJR東海道本線に乗り換える。乗り換え時間は6分。余裕の乗り換えだ。

東海道本線もトイレ付きの車両なので安心した。なにせ、僕はトイレがない、という状況になると精神的に追い込まれてウンコに行きたくなってしまう。その行きつく先は終着駅ではない。脱糞である。僕にとって車両でのトイレの有無と社会的生命とは等価値なのである。

 

小田原駅(神奈川県) 6:21

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 1時間ちょっと乗車すると小田原駅に到着する。まばらだった車内の乗客も通勤通学客が増えてきて賑やかになってくる。

6時21分着で、次は22分発の熱海行きに乗り換える。乗り換え時間1分という、魔の乗り換えトリックを使わなければできそうにない時間設定であったが、普通に待っててくれたのでなんなく乗り換えることができた。ただし、ここまでタイトな乗り換え設定でほとんどジュースすら買えない状況である。

 

熱海駅(静岡県)6:45

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 ここの移動が一番鬼門と思われたが、きっちりトイレがついた車両であった。ウンコを漏らさなくて済んだ。またもやタイトな乗り換えで、4分間のうちに浜松行きに乗らなければいけない。少々朝飯を食いたい気分が高まってきたが、この乗り換え時間ではそういうわけにはいかない。

6:49発浜松行きに乗り込む。思えばこれが地獄の始まりであった。

乗り込んでみるとトイレがなかった。どうもこの区間の列車はトイレがあったりなかったりするらしい。悪いことにトイレがない車両にあたってしまったようだ。トイレを兼ね備えていない危険な状況でどれだけ過ごさねばならないのか、調べてみると、浜松まで2時間半だった。駅にして33駅である。正気じゃない。気を失いかけた。

これはもう、便意との戦いである。旅情?うっせえな、そんなん知るか、こちとら漏らすか漏らさないかの戦いをしてんだ。女子供はすっこんでろ。2時間半だぞ、2時間半、こんだけ時間あったら映画「恋空」とか鑑賞できるぞ。恋空やってる間、ずっと便意と戦うんだ。プスプス言ってる爆弾抱えて2時間半、150分だぞ、9000秒だ、9000秒、これはもう殺人列車ですよ。苦役列車ですよ。

途中、なんどもダメになりながら、地球のみんな、ほんのちょびっとでいい、オラのアナルに力を分けてくれ!とかやりながら耐え忍んだ。静岡駅超えたあたりが一番やばかった。

 

浜松駅(静岡県) 9:19

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 なんとか人間としての尊厳を守りつつ浜松駅に到着。疲労困憊、汗だくである。ここでの乗り換えはまた4分である。タイトな乗り換えトリックでアリバイを偽装、である。トイレに行くことも食事をとることもできない。

ここで、なんとなくここまでの乗り換えで同じメンツばかりがホームを歩いていることに気が付く。他の18キッパーである。目的地は違えど、効率よく乗り換えをしようとすると同じ車両を利用する形になってしまうため、何人かの顔を覚えてしまう。その中でもプロの18キッパーみたいなオッサンがいて、なんと、自分で簡易的な椅子を持参して18キップの旅を楽しんでいた。満員で座席に座れなかった時にその椅子に座るつもりらしい。果たしてそれはマナー的にどうなのだろうか。

9:23豊橋行きに乗り換える。申し訳ないが、トイレが付いていたのか記憶がない。浜松までの2時間半ウンコ我慢という大一番を終えて完全に抜け殻状態である。ただ、あまり戦った記憶がなかったので、おそらくトイレはついていたのだろう。

車内はかなり混みあっていて座席は空いていなかった。この旅で初めて立ったまま移動することになったが、やっぱりプロ18キッパーのオッサンは自分の椅子を広げて座っていた。

 

豊橋(愛知県)9:56

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 長かった静岡県も終わり愛知入りである。思えば、熱海から浜松、静岡の中はずっとウンコとの戦いであった。静岡=ウンコ我慢というトラウマがしっかりと頭にインプットされた。

18キッパーの間では「魔の静岡」「魔の岡山-姫路間」「魔の山口」という3つの魔界が存在すると聞いた。これらは移動距離も長く、列車の設定もあまりよくなく、景色にも飽きるという欠点があるらしい。奇しくも、この旅でこの魔の区間を全て制覇する。そのうちの一つをクリアしたことで随分と気楽になった。

乗り換え時間は7分。随分と余裕があるが、それでもちょっと食事、とはいかない時間だ。JR東海道本線快速、大垣行きに乗り換える。途中、名古屋を通過する路線だ。トイレもついていて安心である。これがあるべき姿である。熱海-浜松間は悪魔だ。

相変わらず列車内は混んでいて、プロ18キッパーのオッサンもまた椅子を広げていた。けっこう邪魔である。

ただ、次の大垣には大きな夢と希望がある。なんと、予定では乗り換え時間が11分もあるのだ。これを利用すればたぶんちょっと立ち食いソバとか食べることができてしまう。完全に旅情である。今日初めての食事がとれる可能性がある。大垣で11分。立ち食いソバ、それを連呼しながら名古屋などを通過していく。

 

大垣(岐阜県) 11:41

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とんでもないことになった。乗り換えが11分あり、そこでソバなどを食べるはずだったが、なんと、名古屋あたりでゴタゴタがあり、11分遅れて到着した。乗り換え時間0分である。旅情もくそもない。意図せず、大垣ダッシュというエクストリームスポーツに参戦することとなった。

大垣ダッシュとは、JR大垣駅で乗り換えるときに走ること、また、その走る人々のこと。別名大垣レース。  

東京・名古屋方面から、米原・大阪方面へ向かう場合に、大垣駅で乗り換えになることが多いが、大垣~米原間は短い編成(4両)で運転されることが多いため、限られた座席に着席するため、走ることが多い。

一般的に大垣ダッシュと呼ばれるのは、5:51着東京発大垣行臨時快速「ムーンライトながら」から5:56発米原方面行の普通列車(京都~西明石間快速列車)への席取りダッシュのことを指す。

大変多くの乗客がダッシュをするため駅構内で別の列車の乗客と問題になる事も多く、市議会で取り上げられたほどである。

 乗り換え11分もあるのならば大垣ダッシュの必要はないと安心していたが、0分とあらば臨時のレース開催である。とにかく走った。しかもホームが異なる乗り換えなので、階段を登ったりと降りたりとかなり危険である。上の画像を撮影するのも困難で、走りながら撮影したほどだ。ソバを食って旅情どころではない。ダッシュする大量の18キッパーにもみくちゃにされながらなんとか乗り換えた。

ダッシュの甲斐もあり、なんとか東海道本線米原行きの乗り換えに成功する。しかしながらここで大事件が起きる。

やはり米原行きは利用する人数のわりに車両数が少なく、車内は混雑していた。プロ18キッパーのおっさんも座ることができず、いつものように自分の椅子を広げて座っていた。なぜかオッサンはそこで旅の記録を付けようと思い立ったのか、カバンからノートパソコンを取り出したのだ。それがかなり年代物のSOTECのノートパソコンで、そ、SOTEC・・・!と思いながらその光景を眺めていたのだけど、すると、オッサン持参の椅子の足が折れた。

そのままオッサンは後ろに倒れこみ、ポーンとノートパソコンも上空に舞い上がり、そのままガシャンと地面に叩きつけられた。オッサンしょんぼりである。SOTECのノートパソコンは液晶が割れていた。

「割れちゃった」

そういうオッサンの言葉がなんとも切なかった。

乗客の誰もがそんな椅子に座ってるからだ、邪魔なんだよと思ったかもしれないが、僕はある一つの事実を見逃さなかった。ポーンと上空にSOTECのノートパソコンが舞ったとき、DVDドライブも蓋が開き、中のDVDも飛び出していたのだ。

そのDVDは「つぼみのファン感謝デー」であった。エロDVDである。プロ18キッパーのおっさんはつぼみのファンなのだ。飛び出した「つぼみのファン感謝デー」は僕の足元にある。すごくドキドキした。米原行きの列車に乗っているのに、足元に「つぼみのファン感謝デー」があるだ。旅情どころの騒ぎではない。

このまま気づかなかったらオッサンに渡してあげたらいいのだろうか、それともここは駅員あたりに届けるか、そんな思いが悶々としていた。米原に到着する直前にオッサンが「つぼみのファン感謝デー」がないことに気が付き、僕の足元から拾い上げていった。

 

米原(滋賀県)12:20

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 米原に到着。プロ18キッパーのSOTECノートパソコンの「つぼみのファン感謝デー」のオッサンとはここでお別れ。乗り換えた先の列車にはいなかった。

ここからは関西地方でブイブイ言わせている新快速に乗車できるのでかなり楽になる。もともと乗り換え時間は3分しかなかったが、大垣での接続待ちの影響で遅れて乗り換え時間は1分であった。やはり食事をとることはできない。

JR東海道山陽本線新快速姫路行きに乗車する。京都や大阪、神戸などを通過し、車窓から三都物語を楽しむ。トイレも兼ね備えており、新快速はとにかく僕に優しい列車であった。2時間半の乗車も苦にならない。熱海-浜松は見習うべきである。

さらに夢があることをいうが、この先の姫路駅では、な、な、な、なんと、乗り換え時間が16分もあるのである。これはもう食事をするのに十分すぎる時間設定である。16分もあればなんでもできる。これはちょっと手のかかるものをオーダーしても大丈夫だ。食事は近い。旅情を感じられるはずである。さすが夢の新快速である。

 

西明石(兵庫県)14:41

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結論から言わせていただくと、食事はできなかった。新快速に遅れが生じ、とてもじゃないが旅情を感じて食事をしている場合ではなくなった。調べると、この先の姫路で乗り換えても西明石で乗り換えても同じ車両に乗ることになるっぽいのでいち早く西明石で乗り換えを決行した。

関西圏に入ったあたりから、あれだけ同じ行動をしていて仲間意識が高まっていた他の18キッパーの姿を見なくなる。散り散りになったか、あるいは車両が増えたので同じ車両でも出会えなくなったのか。なんにせよ、少し寂しい気持ちだ。

 

相生(兵庫県)15:22

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二つめの魔界ゾーン「姫路-岡山間」に突入である。乗り換え時間は3分。もちろん食事はとれない。他の18キッパーの姿も見えないのでかなり寂しい気持ちになる。

山陽本線糸崎行きに乗り込む。一気に岡山県を通過するロングコースで、ここもまた2時間半ほどの長丁場。トイレがなかったら精神的に死ぬぞ、というか漏らすぞと半ば覚悟していたが、しっかりトイレが装備されていて安心した。熱海浜松は見習うべきである。

 

糸崎(広島県)18:10

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ついに広島県に突入だ。

夕暮れが近づいてきたというのにまだ食事は取れていない。ここまで2度チャンスはあったが、不幸にもその2つとも列車の遅れによってタイトな乗り換えを余儀なくされている。しかしながらその不幸もここで終わる。

な、な、な、なんと、ここ糸崎駅では乗り換え時間が22分もあるという幸運が待ち受けていた。完全に糸崎チャンスである。これを僥倖と言わずして何を僥倖というのか。22分だぞ、22分。もうなんでもできる。22分もあれば一人の少年を勇者に変えることだってできる。完全にもらった。電車の遅れもなし、よし、いける、きたぞ糸崎チャンス!ついに糸崎駅へと到着した。

 

単刀直入に結果だけを言うと、食事はできなかった。

糸崎駅には何もなかった。あまりの衝撃に画像すら撮影できなかったので、資料画像を引用すると、これである。

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ちょっと食事をする雰囲気ではない。もちろん、駅周辺にはいろいろあるだろうが、22分という時間設定ではちょっと心もとない。少年は勇者にはなれなかった。腹をすかせたまま、ベンチに座って次の列車を待つことしかできなかった。そうなると22分とは単に接続の悪い乗り換え時間でしかない。

18時33分発徳山行きに乗り換える。徳山まで3時間半、駅にして45駅の最長列車である。トイレがない場合は地獄でしかないが、しっかりと装備されていて安心した。熱浜のヤロウは見習うべきである。

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ついに日没を迎えそうな雰囲気になってくる。

 

西条(広島県)19:04

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徳山までいくつもりだったが、どうやらここで乗り換えても結果として同じ列車に乗り込むことになるようだったので、ここで途中下車。

学生時代を過ごした街である。懐かしさを噛みしめながら、そういやこの駅でウンコ漏らしかけたことあるなと思い出に浸る。

もちろん、食事をできるような乗り換え時間ではないので、昔を懐かしむだけで終わった。ここまでくると、空腹なのか、気持ち悪いのか、痔が痛いのかウンコしたいのか、自分の感情がよく分からなくなってくる。

 

(徳山)(山口県)21:59

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乗り換え駅ではないが、ちょっと停車時間があったので降りて駅名表示だけ撮影。

3つ目の魔のゾーンであるクソ長い山口県もいよいよ佳境だ。ここを超えればついに九州到達である。もちろん、まだ食事はとっていない。旅情もくそもない。もう帰りたい。

 

下関(山口県)23:50

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ついに下関に到達。

魔の山口県ゾーンと本州が同時に終わりを告げる駅だ。

本当に山口県ゾーンは長く、しかも夜だったのでほぼ漆黒の闇の中を走っている状態だった。列車内も酔っぱらって寝ているオッサンくらいしかおらず、イメージとしては千が銭婆に会いに行った時の電車くらいの寂しさがあった。

その旅ももう終わり。いよいよ最後の乗り換えだ。

乗り換え時間1分で小倉行きの車両に乗る。

列車内で0時を迎えたので、青春18キップの規定により、0時を超えた時点での次の駅で下車となる。もちろん、その次の駅は。

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小倉(福岡県) 0:04

ということで、本当に2370円で小倉までくることができてしまった。

所要時間 19時間9分

乗り換え回数 12回

途中駅 206駅

乗り換えがタイトすぎ、さらに不幸も重なり全く食事すらとれない状態で旅情もくそもありませんでしたが、とにかく皆さんのどこか遠くに行きたいという思いを代表して小倉までくることができました。それも2370円で。

東京から小倉まで2370円だったのに、次の日は飛行機で東京に帰るべく、普通にキップ買って福岡空港まで行ったんですが、1230円もかかりました。なんかすげえ高価に感じた。

 

(2014年8月のダイヤです)

(追記)値段が微妙に間違ってたので訂正しました。現在11850円で1枚当たり2370円です。