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手のひらのタイムマシン

お金がない。競馬に負けてお金がない。

お金がないというのは切実に苦しいもので、異様に四苦八苦する緩やかな地獄だ。バカな自分を呪うことすら何とか金にならないか、時給が発生しないか、時給200円くらいでもいいから、と夢物語を漠然と考える一方で、現実的な対策に乗り出さないといけないと方策を考えるリアリストな自分もいる。

僕らは夢を食って生きてはいけない。夢より米である。ならば自分を呪う時給なんてバカなこと言ってないで本格的な対策に乗り出さなくてはいけない。

ゲームを売ろうと思った。

持っているゲームを売れば何とか当座は凌げるだろう。けれども、これはまだクリアしてない、これはまだ飽きていない、さすがに本体を売るのはちょっと、様々な吟味を重ねた結果、奥深くに眠るいにしえのゲームを売ろう、ということになった。

出てきたのは「バイオハザード5」というソフトだった。ソフトを鷲掴みにし中古ゲーム屋へと走った。ゲームを売る際には足元を見られてはいけない。悠然とカウンターに赴き、まあ、金には困ってないんだが売ってやる、査定しろ、くらいの気概で臨むべきである。イメージとしては先祖代々相続してきた土地を売るくらいの気持ちでいくべきである。

「では、査定が終わりましたら番号でお呼びしますんで」

ふむ。それでは待たせてもらおうか。ここでもあくまでゲームの値段ではない、土地の評価額を待つくらいの気概で臨むべきだ。いくらぐらいの評価額だろうか、もう古いゲームだしそんなに値段はつかないだろう、そう考えるとあまり期待しすぎるのもよくない。けれどもまあ、最悪、飯を食えるくらいはあるだろう、ワクワクしながら待つ。

いよいよ番号が呼ばれた。買取カウンターに赴く。この時もニヒルなポーカーフェイスで臨むべきだ。さあ、買い取り額を言ってみろ、そんな上から目線で対応するべきだ。ほれ、言ってみろ、いくらで買い取りたいんだ。

「もうしわけありませんが、中のディスクが別なものだったようで買い取れません」

そ、そんはずはない!確かに確認はしなかったけど!焦ってバイオハザード5を手に取り、パカッと蓋を開けるとそこには「つぼみ式早漏チ○ポ強化合宿」のディスクが厳かに鎮座しておられた。

まじかー、これけっこう名作なんだよなー、つぼみちゃんが献身的で良い、と思うのだけど、今はそんなこと言っている場合じゃない。ゲーム売りに来て中にエロDVDは結構上位の恥ずかしレベルだ。とにかくわざとじゃないことをアピールしておかないとセクハラ的な何かになるかもしれないので

「すいません。パッケージが似てたので間違えました」

と顔を真っ赤にして弁明しておいた。ちなみに両者のパッケージは1ミリも似てないので、参考のために画像をアップロードしておく。

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顔から火が出る思いをしながら家へと帰った。そして、バイオハザード5のディスクはどこにあるのかと大捜索が始まった。普段は手を付けないようなボックスの中まで捜索すると、携帯電話がコロンと飛び出してきた。

古い古い携帯電話。おそらく機種変更で必要なくなった機種をそのまま奥深くに封印していたのだろう、表面も傷だらけでよくわからないストラップがついている。ただ保存状態はなかなか良く、ぎょっとするくらい分厚くて重量があることに目をつぶれば、まだまだ現役で使えそうな雰囲気だった。

とりあえず電源ボタンを押してみる。もしかしたらなんか残っているかも、と軽い気持ちで押してみた。もちろん電源は入らない。逆に電源が入った方が怖いわと思いつつも、そういえば、近くに充電コードも保存していたような気がする、と探すと充電コードはすぐに見つかった。

そのコードを繋いでみると、赤いランプが点灯する。充電できているようだ。もしかしたら電源も入って当時の内容を見ることができるかもしれない。もう何年前に使っていた機種かも覚えていないけど、携帯電話とは人間の生活そのものだ。その内容を知るということは当時の自分を知ることができる。いうなれば過去にだけいけるタイムマシン。手の平のタイムマシン。それがいにしえの携帯電話だ。なんだか胸がワクワクしてくる。

しばらく充電を待って電源ボタンを長押ししてみる。真っ黒だった液晶画面が少し明るくなった。電源が入った。タイムマシンが起動したのだ。なんだか胸が高鳴ったのを感じた。あの日、あの時、撮影した画像が残っているかもしれない。誰かに送ったメールが残っているかもしれない。当時の僕は何を考え、何に夢中になって暮らしていたのだろう、それを知ることができる過去へのタイムマシン、早速操作してみた。

色々操作してみて分かったことだけれども、タイムマシンは正常に機能していなかった。当時のデーターは残っていなくて、完全に初期化された状態になっていた。

携帯電話の記憶領域はその多くが揮発性のメモリに分類される。つまり、まったく充電されない状態が長く続くと記録を維持できず、まっさらになってしまう。ものすごくガッカリだ。

けれども、失意のまま操作していると、メールの一部だけが残っていることに気が付いた。おそらく、なんかの証拠になるかもしれないと付属の外部メモリに移動させたやつだと思う。相手から来たメール、それに対して自分が送ったメール、そんなやり取りが何通か残されていた。この外部メモリは不揮発性のメモリーで充電しなくても記録が残っていたのだと思う。

早速、その中の1通のメールを開いてみる。

「アダルトサイトご利用の使用料58000円をお支払い頂けない場合は関係裁判所へ控訴いたします」

という、架空請求サイトから送られてきた衝撃的脅し文句のメールが飛び出してきた。それに返答した僕のメールの煽りが本当にひどくて

「控訴。第一審の判決に対して不服がある場合に上級の裁判所に判決の確定を遮断して行う不服申し立てのこと。まだ1回も裁判してないのにいきなり控訴するとか悪徳業者さんハンパねえっすわ。いきなりクライマックスっすわ」

とか返信している。自分のことながらなんて小生意気なガキだ。

他にもこういった当時流行していた悪徳サイトを煽りまくってるメールがゴロゴロでてきて、当時の僕は何をやってたんだと思うのだけど、その中で異彩を放つ一通のメールがでてきた。

「今日はお金がなくてふりかけ食べました。ふりかけにご飯ではないです。ふりかけそのものだけを食べました」

なぜか当時の僕、ある女の子に対していかに自分が貧しいかを強烈にアピールしているんです。何考えてるんだ、このバカ。

どうも当時の僕は今以上にバカだったみたいで、なんか貧しくて飢えている自分をかっこいいと思ってる節があって、それを女の子にアピールしているんですね。で、どうも母性をくすぐろうとしてるのか、そんなに飢えてるなら私が作りに行ってあげるよ!みたいなのをすごい期待した文面が並んでるんです。

でも脈がないんでしょうねえ。その女の子からの返信は「ふりかけだけだと栄養がないよ、せめて同時に醤油も飲んでみたら?」みたいな、ちょっと不慮の事故で僕が死んだら比較的喜ぶかもしれないな、この子は、って印象のメールが続いているんです。

なにをやってるんだこいつは。せめてこいつは他人であってほしい、そう思うんですけど、メールを読めば読むほど自分なんですよね。もしこの携帯電話で過去の自分と会話できるなら「その子は脈がないからやめとけ」ってアドバイスできるんですけど、それができるはずもなく、ほんと、これ、完全に役立たずのタイムマシンだ。

どんどんとメールを読み進めていくと文面的に過去の僕が勝負をかけなければいけないと決意した感じになってきて、いよいよ次のメールが本気のアプローチになるぞ!みたいな雰囲気が漂ってきたんです。いよいよ次のメールで過去の僕の本気のアプローチが始まる。ドキドキしながら開きました。

「もう本当にお金がありません」

だからアピールする部分が違う。こいつ本格的にバカなんじゃないか。

「お金がないのでゲームを売りに行こうと思います」

よく考えてみてほしい、どんな時代背景であっても、こんなアピールに素敵となびく女はいない。江戸時代に侍が拙者は金がないから刀を売る、とアピールして素敵、となるはずがない。根本的に間違ってる。

「ゲームを売るときは足元を見られないように堂々とするべきです。土地を売るイメージで」

「古いバイオハザード3ってゲームなんだけど結構プレミアついてるんちゃうかな。期待大です。売れたら奢るのでご飯行きましょう」

「今から売ってきます!」

何度も言わせてもらうけど、オタク仲間に報告しているメールではない。狙っている女の子にアプローチとして送っているメールである。当時の僕、その辺の雑草を炙って吸ってたんちゃうかな。本当にタイムマシンというものがあるならこれより過去にいってこいつを消してやりたい。ちなみにこの辺のメールでは相手からの返信が一切来ていない。

そして、いよいよ保存されているメールが最後の1通となった。はたしてバイオハザード3はいくらで売れたのか。彼の思いは遂げられたのか。多分無理だと思うけど彼女へ思いは伝わったのか!メールを開いた。

「売りに行ったらケースの中にエロDVDが入ってて売れませんでした」

なんなんだよこいつ!

わかる。わかるよ。DVDとか入れ替えるときに剥き出しは傷つきそうでまずいなー、あ、適当にこの箱に入れとけ。中身違うけどわかるかまいっかーでそのままにするのわかる。でも売りに行く時くらい確認しろよ。ほんと、確認しろよ。中身がエロDVDで売れないのはいいよ。三千歩譲ってもうそれでいいいよ、でも狙ってる子にそれアピールするなよ。そんなドジなところもかわいい、わたしがついててあげないとだめかなーって絶対ならない、地球が滅びてもならない。未来の俺が言うんだから断言する。そういう報告は絶対にやめろ。

奥深くに眠るいにしえの携帯電話。それはメモリさえ無事ならば過去にだけいける手のひらサイズのタイムマシンになりうる。けれども、携帯電話からスマホに、機器がどんなに進化していても使っている人間はそんなに変わっていないものなのだ。

ちなみに冒頭の「バイオハザード5」、中身を見つけて再度売りに行ったら買い取り査定額は80円だった。

 

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