愛してると言ってくれ

随分前に、フランスのロワイヤル氏に関するニュースが報じられれた時かなんかに、ネットニュースの見出しが「仏ロワイヤル氏が」となっていて、これは仏ロワイヤルだ!と仏たちが生き残りを賭けて離島で殺しあうストーリーをMixiで書いていたときでした。確か、愛染明王が物語のカギを握っていたのですけど、いいペースで執筆を進めていると、ある文章が回覧板のごとく回ってきたのです。

ある男子と女子がバイクで出かけてると…
彼女が「スピードが速いよ。スピード落として!!」
彼氏が「なに、怖いの??」
彼女が「すごく怖いスピード落として」
彼氏が「OK、でも愛してるって言ったらね!!」
彼女が「愛してる、愛してるだから今すぐスピード 落として!!」
彼氏が「もちろん、でも強く抱きしめて、一度も したことのない強さで抱きしめて…」
びっくりしてる彼女は言われたとうりにして言った。 彼女が「お願い今すぐスピード落として!!」
彼氏が「わかった、でも俺のヘルメットを取って お前がかぶったらな」
彼女は彼氏のヘルメットをかぶった
彼女はまた言った
彼女が「スピード落として!!!」
次の朝のニュースで
昨日の夜に若い男女がバイクで事故に合いました 。
二人うち一人が亡くなったこと
その前に彼のこと話そう
彼氏が「ただ彼女が助かって欲しかった…」
彼は気付いてた
彼女にスピード落として、と言われる前から
バイクのブレーキがきかないことを…
それで彼は彼女に頼んだ 愛してるって言って
そして抱きしめて欲しいことを
彼はこれが最後になることを知ってたから
そして彼女にヘルメットかぶらせて助けたかった
自分の命を犠牲にして
同じことをしますか?
大切な人がいなくなるまで待たないで
そして自分にとってとても大切な人だと伝えなく なるまえに
今日誰かを幸せにしてください

 これが泣ける感動話として回ってきたわけです。ちょっと普通に読んだだけでも3000か所くらい突っ込みどころがありそうで、例えば、「ヘルメット、お前がかぶったらな」の部分なんて、バイクに乗るのに彼女をノーヘル、自分はがっちりヘルメットって酷い話ですし、そもそもバイクってのは前輪と後輪でブレーキがわかれています。両方が突然効かなくなるってことはそうそうありません。4万歩譲って効かなくなったとしても、ギアを下げて行ったりすれば容易にエンジンブレーキがかかります。つまり、いくら読んでも感動できず、なんでこんな事態になってしまったのか、という部分ばかりが気になるのです。

でもね、そういうのを突っ込むのってけっこう野暮だと思うんですよ。デスノート読んで、どういう理論で名前を書かれた人が死ぬなんてことが可能なんだ、材質は?KOKUYO

とかそういうのばかり気にしてる訳ですから、まあ野暮といえば野暮です。

「この話はバイクに乗ったことない人が安易に感動話を作った」

そう断じてしまうことは簡単ですが、それでは世界が広がりません。もしかしたら、この文章には僕たちが気付かないだけでかなり深い意味が隠されているのかもしれません。ということで、今日は、あらゆる側面からこの文章を解体してみたいと思います。

 

①彼氏狂言

このストーリーは、最後の締めの部分を読んでもわかる通り、自分を犠牲にして大切な人を守る、という主題があります。つまり、普通に読み解けば、なぜかバイクのブレーキが利かず、おまけに彼女のヘルメットはどこか次元の狭間に消失しており、アクセルは全開から微動だにせず、ギアも変えられない、そういった状態に気付いた彼氏が、なんとか彼女だけを助けようと画策したところに感動ポイントがあります。

はたして、それは正しいのでしょうか?

これを読み解くのに重要な一文があります。

彼氏が「ただ彼女が助かって欲しかった…」

事故後に彼氏のコメントが出ているところに注目です。

二人うち一人が亡くなったこと

とニュースで報じられたとありますから、二人のうち一人は確実に死んでいます。どんな事故だったのか分かりませんが、ヘルメットが亜空間に消滅し、バイクがどんどん加速していく状況では、亡くなったほうは即死であると考えるのが普通でしょう。つまり、助かったのはコメントを残している彼氏、亡くなったのは彼女、となります。多くの人は彼氏が自己犠牲で彼女を救ったと受け止めますが、それでは多くの矛盾点を説明できない。ちなみに二人乗りのバイクが事故した場合、後ろの座席のほうが死亡率が高いようです。

死人に口なし、という言葉があります。つまり、彼女のためにヘルメットを渡した、愛してると言ってもらった、抱きしめてもらった、この辺は彼氏の狂言である可能性が非常に高い。さらには、ブレーキが効かなくなった、スピードが落ちなかった、などのバイクの不具合も彼氏の虚言である可能性が高い。そうなると、バイクはブレーキがわかれているから~みたいな突っ込みも無意味なものとなる。なにせ彼氏の狂言なのだから。

つまり彼氏は彼女を殺したい理由があった。それはやはり男女の仲なので色々とあるだろう。彼女がもう心変わりをしてしまっていて、別れようと切り出されたかもしれない。他人に取られるくらいなら壊してしまおう、そう考えたかもしれない。

最後に一度、付き合い始めの時のようにバイクに乗ろう。

そう言って誘ったかもしれません。そして、どんどんと加速していく。彼氏は言った。愛してるといてくれ、強く抱きしめてくれ、そうすることで思い止まれると思った。怖がる彼女は言われるままに従った。けれども、その言葉にも温もりにも、もう心がないことを知ってしまった。決意は変わらなかった。それが最後になると知りながら、さらに加速させていく。彼はどんな気持ちだったのでしょうか。それは僕にもわかりません。何にせよ、殺人者の気持ちなんて分かりたくもありません。ただ一つ、とても空虚な何かであろうことは想像できます。

そして、ついに、バイクはブロック塀へと衝突した。自分だけ、その寸前で飛び降りる彼氏。遠くから救急車のサイレンが聞こえた。心変わりをした、もうそこに心のない彼女が横たわっているのが見えた。

こういった計画的殺人が美談として語り継がれる恐怖。世の中にはそういうことが往々にしてあるよね、という戒めなのかもしれません。

 

 ②彼女、テロリスト説

バイクのブレーキが効かないのではなく、減速できない理由があったとしたらどうだろうか。つまり、バイクには爆弾が仕掛けられていた。おまけに、その爆弾は時速50マイル以下になると爆発する。彼氏はそれを知ってしまった。加速するバイク、彼女だけはどうしても守りたい。けれども、爆弾を仕掛けた黒幕は他でもない彼女だった。

しきりに「スピード落として」というセリフを彼女が言うのは、同型の爆弾が仕掛けられたバスの話を描いた映画スピードへのオマージュだろう。そして、爆発させようと、なんとかスピードを落とせて指示をする。けれども彼氏はテロリストには屈しない。

途切れた高速道路など困難が立ちふさがる。そして、ついにバイクは空港の滑走路へと侵入する。そこで彼氏がとった解決策とは!?怒涛の展開が連続するノンストップフルスロットルアクション!

 

③魔王説

彼女と彼氏の掛け合いをみていると、ある有名な曲に似ていると気が付く。セリフだけ抜き出すと、次のようになる。

「スピードが速いよ。スピード落として!!」
「なに、怖いの??」
「すごく怖いスピード落として」
「OK、でも愛してるって言ったらね!!」
「愛してる、愛してるだから今すぐスピード 落として!!」
「もちろん、でも強く抱きしめて、一度も したことのない強さで抱きしめて…」
「お願い今すぐスピード落として!!」
「わかった、でも俺のヘルメットを取って お前がかぶったらな」
「スピード落として!!!」

彼女が懇願しているというのに彼氏は一向に取り合う気配がない。このやり取りは、シューベルトの魔王に似ている。

馬で駆ける父と子、子は魔王の姿を見て怯えている。父子の会話だけを抜粋すると

「息子よ、何を恐れて顔を隠す?」
お父さんには魔王が見えないの?王冠とシッポをもった魔王が」
「息子よ、あれはただの霧だよ」

魔王「可愛い坊や、私と一緒においで楽しく遊ぼうキレイな花も咲いて黄金の衣装もたくさんある」

「お父さん、お父さん!魔王のささやきが聞こえないの?」
「落ち着くんだ坊や枯葉が風で揺れているだけだよ」

「素敵な少年よ、私と一緒においで私の娘が君の面倒を見よう歌や踊りも披露させよう」

「お父さん、お父さん!あれが見えないの?暗がりにいる魔王の娘たちが!」
「息子よ、確かに見えるよあれは灰色の古い柳だ」

魔王「お前が大好きだ。可愛いその姿が。いやがるのなら、力ずくで連れて行くぞ」
「お父さん、お父さん!魔王が僕をつかんでくるよ!魔王が僕を苦しめる!」

 駆ける馬はバイクと読むことができる。つまり、この話は現代の魔王であると言い換えることができる。つまりこういうことだ。

風の夜にバイクを駆り
駆けりゆく者あり
彼氏と彼女が
しっかとばかり抱きけり

貴子、なぜ顔隠すか
「高志スピードが速いよ。スピード落として!!魔王がいる!怖いよ」
貴子、怖いの??
「すごく怖いスピード落として!!魔王がいる!」
「OK、でも愛してるって言ったらね!!」
「魔王がいる!魔王!」
「強く抱きしめて、一度も したことのない強さで抱きしめて…」
「魔王!」

からくも宿に着きしが
貴子は既に息絶えぬ

 ④暗号説

実は最初の文章には明らかに異質な文章がある。それが最初の1行目だ。

ある男子と女子がバイクで出かけてると…

 この冒頭の一文は明らかに異質と言える。「…」と3点リーダーを使っている点だ。基本的に一連の文章はあまり文章力が高くない。それなのに、ここで3点リーダーを使って余韻を演出してくることに違和感を覚える。

多くの暗号は、その最初の一文に暗号を解くヒントを忍ばせている。つまり、この3点リーダーは暗号のヒントである可能性がある。暗号、そして3点リーダー、それから思い浮かぶのはモールス信号である。

www.benricho.org

モールス信号において3つの点は「ラ」を示す。つまり3点リーダーは「ラ」と読める。

ある男子と女子がバイクで出かけてると…

冒頭のこの一文をひらがなを「・」にし、漢字を「ー」としてモールス信号に当てはめていくと。

「・・--・--・・・・・-・・・・・・・・」

「ノ」「ツ」「へ」「ク」「ヌ」「へ」「ラ」

並びかえると

「ヘラノツクヘヌ」

同様にしてすべての文章をモールス信号に当てはめていくと、紙面の都合上、詳細な解説は控えるが、最終的に一つの唄にたどり着く。

今のごと心を常に思へらばまづ咲く花の地に落ちめやも

万葉集 第八巻 1653)

これは、「今のように、変わらない心でいたならば、春に真っ先に咲く花のように地に落ちてしまうようなことはないでしょう。変わらずあなたのことを思っています」という強烈な愛のメッセージであったことがわかる。

つまり、少しおかしな状況、少しおかしな文章で回ってきたこの「バイク事故の男女」に秘められた暗号は、ずっと変わらずあなたを思っています、という一途な気持ちを暗号にしたものである。それならば多くの人が感動するのも納得だ。

 

状況や文章がおかしい、そう揶揄することは野暮なことなのかもしれない。そこに愛があるのならば、人々は感動し、共感する。やはり何事も愛なのだ。愛がカギを握る。恋愛成就、良縁の仏として知られる愛の仏、愛染明王がカギを握るのである。

 

 

 

 

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