それでも暮らしは続くから全てを今忘れてしまう為には全てを今知っている事が条件で僕にはとても無理だから一つづつ忘れて行く為に愛する人達と手を取り分けあってせめて思い出さないように

これは夢ですか?

目が覚めると僕のチ○ポが見知らぬ女性の口の中!

お姉ちゃんは僕と相部屋にも関わらず友達(狭いのに2人も!)を呼んでよく宅飲みをするんです!

僕が寝ている横で。翌朝、目を覚ますと見知らぬお姉さん2人に挟まれて寝ているではありませんか!

しかも、お口の中に何故か僕のチ○ポがすっぽり収まっている!!

夢?

なのに気持ち良すぎで思わず口内発射。しかも振り返ると今度は何と、半ケツお姉さんがもう一人!

どうせ夢なら楽しみたい!挿入即発射したら目を覚ますお姉さん、これは夢じゃなかった!

チ○ポ丸出しで言い訳しても説得力ゼロ。でもあれ?怒ってるはずのお姉さんの視線はがっつり僕のチ○ポへ…。

まさかこのまま続きをと思いきや、

「今からまた寝るけど今度は入れないでよね」

と寝ちゃうお姉さん。でもさっきよりもっと至近距離で二度寝してる。これは誘ってるのか?

さっきのじゃ物足りないとか?

うーむ…さぁどうしよう。
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冒頭から何をトチ狂ったのかとお思いでしょうが、落ち着いて聞いてください。「チ○ポ丸出しで言い訳しても説得力ゼロ」なんて絶対日常生活で使わない言葉が飛び出してますが、落ち着いて聞いてください。実はこれ、冒頭からさぁどうしよう、まで丸々がAVのタイトルなんです。どうも現時点で最長の長さを誇るらしく、こんなもん文章じゃねえかとお思いでしょうが、実際にパッケージを見るとこんな感じになっているみたいです。

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文字数にして395文字。ほぼ原稿用紙1枚分です。もうフォントが小さくなりすぎていて生命保険の契約書の裏のほうみたになっていて訳が分からなく、競艇のCMくらい意味不明な感じになってますが、実はこれ、最近主流の流れだったりするのです。

例えば、ライトノベルなどの書籍はどんどんとタイトルが長くなる傾向にあります。さらにはネットなどで拡散されるネット記事の多くは、つけられる表題がかなり長いものになってきています。

これは書籍も記事も本屋さんで手に入れるしか手段がなかった時代と違い、ネットで入手することが主流となったためだと考えられます。現代社会は多くの情報が溢れています。それら全てに触れることは不可能であり、我々は必然的に情報の取捨選択をしなければなりません。

例えば、墓に関する知識を得たいと思っていたとしましょう。墓石はいくらぐらいするのか。どんなデザインのものが主流なのか。彫ってもらう名前のフォントとか決まってるのか。材質は何がいいのか、色々なことが気になったとします。

そこでただ白い表紙に「墓」とだけ書かれた本が書店に並んでいたとします。果たしてそれを手に取るのか、という問題なのです。もしかしたら、哲学的な意味で「墓」と表題をつけて人生論みたいなものを語った本かもしれません。ただ墓がキーワードとして登場する青春群像を描いた小説かもしれません。タイトルだけで望む情報なのか判断できないのです。

「墓に関して気になったので色々と調べたら値段とか流行りのデザインとか材質とか分かってきた。そして彫ってもらうフォントに隠された秘密とは・・・?」

こんなタイトルであれば、タイトルだけで自分の求める情報が書いてあると一目瞭然、必ず手に取るのです。これはネットの記事も同様で、長く、そして内容を表すタイトルをつけることが多くの人に読まれるポイントになっているのです。多くの情報から自分に必要な情報を見極める。そのためには内容を現したタイトルが好都合なのです。

また現代では検索によってひっかかるというのも重要なポイントで、多くの検索サイトがタイトルにキーワードが含まれる、という部分を高いポイントに置いていますので、「墓 値段 デザイン」と墓を買おうという人が調べそうな検索ワードがタイトルに含まれることが重要なのです。

情報が溢れる現代社会。以前は内容を吟味してもらって評価されるというスタイルが主流だったかもしれませんが、今はもう、まずその情報に触れてもらうことが先決なのです。誰にも触れられないまま消えゆくより、とにかく触れてもらう、まずそこから。そういった意味で内容を現した長いタイトルというのが出てきたのです。これからもドンドン増えていくのかもしれません。

というわけで、当ブログにおいてもそれを利用しない手はありません。そりこそ意味不明なタイトルを付ける傾向にある僕ですが、やはり内容を説明するようなタイトルを付けた時は皆さんの反応も良好である。つまりこうするべきなのです。

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朝出勤したら机の上にクッキーの小さな包みが置いてあって、どういうことだなんで僕のところにこんなものが置いてあるんだって困惑て、だっていつもはみんなにあるのに僕だけないって状態なのに、なんで逆なんだろうってよくよくみてみるとピンクのリボンもついててハートのシールも貼ってあって、ははーん、これは少し奥手で僕に対して思いを告げられない女の子が早起きして誰もいないオフィスで顔真っ赤にしながら置いたクッキーだな、勇気を出して言ってくれれば僕だってやぶさかではないのにって思いつつ、でもこれってどっきりかもしれねえからな、オフィスで嫌われ者にクッキーを愛の告白っぽく置いたら舞い上がるかもっていうドッキリの可能性もあって、最近のテレビ番組は悪質だから素人相手でもこういうブービートラップにかけてくることもありえる、と周りを見わたしたけどカメラはなくて、でも最新の注意を払ってトイレの個室にまでクッキーを持って行ってよく見てみたら「寝坊しちゃだめだぞ(はーと)」みたいなメッセージもあって、おいおいー、こりゃかなわんなーと思いつつ、もしかしたらこの行動を予想されて個室にまで隠しカメラがるのでは、それならば念のためテレビで放送できないように思いっきりチンポ出してやろうって思ってたら、同僚が来て、個室の中の僕に向かって「机の上にクッキーあったろ、わりい、あれ俺の、机の整理してるときに邪魔だから置かせてもらった」みたいに言われて震える声で「そうだと思ってたよ。最初から分かってた」って答えた件について
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こういうタイトルで書くべきなんですよね。こういうスタイルで行くべきなのかもしれません。「クッキーラムネ」みたいな意味不明なタイトルつけるより、これなら書いてある内容も分かりやすい。これでいくべきです。

ただ、これをタイトルにしちゃうと内容が重複しちゃうんで、本文にはその続きの

「チ○ポ丸出しで言い訳しても説得力ゼロ」

くらいしか書くことがない。

鼻歌オーケストラ

テーテーテテッテテテテテーテッテ テーテテテ

先日からこのメロディーが頭から離れない。こういうときに文章ってのは上手に伝わらなくてもどかしく、限界、みたいなものを感じるのだけど、なんとか頑張って表現してみると、多分CMかなんかで流れている曲で、勇ましい感じでもあり青春でもあり、揺れ動く心、みたいな感じの曲なのだけど、まあ、伝わらない。むしろこれで「ああ、あの曲ね」って理解される方が嫌だ。

そうなってくると、やはりメロディを鼻歌にして

「テーテーテテッテテテテテーテッテ テーテテテって曲なんだけど、なんて曲か分かる?」

って知っていそうな人に聞くしかないんだけど、やっぱさ、恥ずかしいじゃん。それに僕ってむちゃくちゃ音痴ですから、聞いた人が分かるとはとても思えないんですよね。しかも知っていそうな人ってだいたい音楽に対して造詣が深い人でしょ。絶対心の中でバカにされる。絶対音感とか持ってるやつにバカにされる。

恥を忍んで鼻歌を伝えたのに結局何の曲かも判明しない。これってただ僕が恥をかくだけじゃないですか。でkりうことならやりたくなにんですけど、テーテーテテッテテテテテーテッテ テーテテテが頭から離れない。何の曲か知りたくて仕方ない。悶々としているとことに救いの手が差し伸べられたのです。

最近では便利な世の中になったもので、なんと、スマホのアプリなんかで鼻歌を聞かせると「この曲じゃない?」って教えてくれたりするんです。これもう未来世界だろ。すごすぎるだろ。もうテクノロジーが発展しすぎてて怖い。とにかく怖い。コンピューターが人類に戦争しかけてくる世界がすぐそこまできてる。

で、早速何個かダウンロードしてインストールして起動してみると、「聴き取り中」みたいな表示が出てくるわけですよ。そこに向かって「テーテーテテッテテテテテーテッテ テーテテテ」って歌うわけなんですけど、まあ、恥ずかしいですわな。

機械に向かって鼻歌って結構恥ずかしくて、未来の僕がタイムテレビみたいなので、どれどれ過去のワシを見てみようかの、って見てみてタイミング悪くそのシーンだったら、あいつは何をしてるんじゃって入れ歯でも飛ばしますよ。それくらい恥ずかしいんですけど、曲を知りたいって気持ちが勝ったんでしょうね、ちょっと小さい声で吹き込んだんです。

「聴き取れません。もっと大きな声で」

ほんと、機械って人間の心がないのな。赤面しながら吹き込んだというのに、さらに大きな声で歌えとかいいやがる。これだから感情のないアンドロイドは嫌いだ。

とにかく恥ずかしいのを我慢して大きな声で歌いましたよ。テーテーテテッテテテテテーテッテ テーテテテって歌いましたよ。ここで読者の皆さんには先に答えを発表しちゃいますけど、僕が探し求めていた曲はAlexandrosの「ワタリドリ」という曲です。

www.youtube.com

サビの部分を聞いてみてもらうとテーテーテテッテテテテテーテッテ テーテテテも分かってもらえると思うのですけど、これを遜色ない感じで鼻歌にしてアプリに聴き取らせたのです。

「検索中」

みたいな表示がされます。いよいよ鼻歌だけで探してた曲にたどり着けてしまう。未来世界がやってくる!ドキドキしながら結果表示を待ちます。出た!

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なんでマライアキャリーのクリスマスの歌やねん。全然違うやんけ。いい曲だけどさ。

 

www.youtube.com

どうなってんだって思ったんですけど、もしかしたら熱意が足りなかったんじゃ?そう思ったんです。やっぱりさ友人に聞く場合でも、適当に歌った鼻歌でこれ何の曲かわかる?って言われても熱意がないわけでしょ、向こうだって軽く受け止めますよ。しらね、口臭いよくらい言われるでしょ。でも熱演だったらどうですか。答えなきゃってなるでしょ。

機械だってその辺の機微を敏感に感じ取っている可能性があります。ここはいっちょ恥ずかしいですが熱演するしかありません。とにかく心を込めて鼻歌を歌いましたよ。

「検索中」

そう表示されます。機械のくせに心意気とかそういうのまで読み取ってくるとはな。なかなかやるじゃないか。もしかしたら、人の心をなくしてしまった現代人たちよりもお前の方が人間臭いのかもな。ふっ、一番怖いのは人間だよ。人間ほどの悪意なんて存在しない。なにバカなこと言ってるんだ俺は。お、結果出た。ついに何の曲か判明する!こい!

 

www.youtube.com

ほんと、これはもう戦争ですよ。そっちがその気ならとことんやってやろうじゃねえか。俺とアプリの、人類と機械文明の戦争ですよ。とことんやってやる。なんで西野カナやねんと。

やっぱねノリが悪かったのかなって思ったんです。こうなんていうか、鼻歌といえどもノリノリで、ときにはエアギターくらいやって歌わないと伝わらないと思うんです。アプリを変えてみたり、iPadのほうでもやってみたり、あの手この手で歌いましたよ。

 

・果てしない夢を/ZYYG,REV,ZARD & WANDS featuring 長嶋茂雄

www.youtube.com茂雄熱唱

茂雄熱唱っすわ。

 

・泣かないぞェ/鈴木蘭々

www.youtube.com

泣くわ

 

・なんで なんで ナンデ?/鈴木蘭々

www.youtube.com

こっちのセリフ。

鈴木蘭々ですぎだろ。本当は知らない洋楽みたいなのがボコボコとヒットしてくるんですけど、その中から知ってる感じの曲を羅列するとこんな感じです。色々なアプリでやりましたが、全然近づけない。

もう鼻歌と言えども熱唱しすぎて喉が枯れてきてるし、実はこの時点で別ルートで探してる曲は「ワタリドリ」って判明してたんですけど、こうなったら意地ですよ。歌手としての意地ですよ。

ちゃんと「ワタリドリ」って出してやるってなってましてね、とにかく最大級の熱唱。ちょっとコブシとか利かせて、もうこれは鼻歌の域を脱してるのでは?魂が歌っているよ、魂歌だってレベルで熱唱したんです。

「検索中」

こい!ワタリドリ!こい!渡ってこい!祈りながら画面を凝視しました。こいっ!

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3つもでてきてんじゃねえ!

もうこれ、音痴の域を逸脱してるだろ。だいたい同じ曲歌ってるつもりなのに検索するたびに結果が変わるのがおかしい。歌が下手すぎる。

検索結果があっちにいったりこっちにいったり、まるで渡り鳥、お後がよろしいようで。

 

www.youtube.com

 

 

 

 

推し麺

髪を切っている時の会話が苦痛で仕方がない。

ほとんど知らない人と会話をするのが苦手だ。最近になって気が付いたのだけど、そもそも僕は相手がある程度僕のことを知っている、という前提の上でしかコミュニケーションが取れない。ほとんど僕を知ってくれていない人相手だと何を話していいのか分からなくなるのだ。

相手は僕のことをどう思っているだろうか。デブだからすげえ食いしん坊だと思ってるかもしれない。それならば食いしん坊キャラでいくしかない!そんなことまで考えてしまうことだってある。基本的にウンコネタはよく知らない人には引かれちゃうからな、鉄板でウケるネタあるけど封印しておこう。そんな風に気を回すことだってある。

「情報の共有」

コミュニケーションにおいてこれは大切だ。相手がどこまで知っているのか、自分がどれだけ知っているのか、共通している情報を探り、予測して、コミュニケーションに活かす。空気が読めない、会話が続かない、などと悩んでいる人の原因の大半はこれだ。自分のことを何も知っていない相手に、熟知していないと理解できないような会話をする、こうやってコミュニケーションの行き違いが生じるのだ。

では、その前提となるべき共有情報が間違っていたらどうだろうか。とんでもない悲劇が待ち受けているのである。

安かったのでスーパーの横にくっついているような美容院に行った時のことだった。顔剃りの時にスタンド攻撃を受けたポルナレフのことが完全にトラウマで、顔剃りのない美容院を好んで利用する。入店するとイケメン風の店長っぽい人が対応してくれた。

「今日はいかがいたしましょう」

僕はこの、髪型注文も結構苦手で、どうやって注文していいのか分からなくなってしまう。トップは長めでサイドは刈り上げない程度に短めで、みたいなこだわりのオーダーができないのだ。なんか、ブサイクのくせにそこまでこだわっても変わらへんで、と思われそうで注文できない。

そうやってマゴマゴしていると、たいていヘアカタログみたいなものを差し出されるのだけど、これまたそれを見ながら笑ってしまう。イケメンがキリッとしている写真は何の参考にもなりゃしない。髪型の下にブサイクな顔が緩んだ表情でくっついていないと意味がいない。もっとパチンコ屋で開店待ちしているゴミどものヘアカタログとかそういうのを作ってほしい。

「まあ、適当で。普通でお願いします」

最終的にはそういうオーダーになり、イケメン店長が「何食べたいって聞いたのに何でもいいって答えられるのが一番困るわ」って言う母ちゃんみたいな顔になってスタートする。

ここまでは普通の展開なのだけど、ここからがおかしかった。チョキチョキと髪を切っているのだけど、店長がこう切り出した。

「どうです? 最近ラーメンの方は?」

基本的にこういった場面では心を鷲掴みにされるような会話を投げつけられることはない。あってもなくてもどちらでも良いような無難な会話しか生じない。けれども、あまりにトリッキーなこの会話に完全に心を鷲掴みにされてしまった。なんでいきなりラーメンの話から入るのか全然理解できない。

「いやまあ、普通ですけど」

よく分からないので髪型のオーダーと同じく「普通」で乗り切ろうとするのだけど、店長はそれを許さない。

「いやね、この間紹介してもらった店良かったっすよ。スープがさっぱり、なのに濃厚、またああいうの紹介してくださいよ」

なんだなんだ、こいつシャブでもやってんのか、と思った。なぜか僕がスープがさっぱり、なのに濃厚な店を紹介したことになっている。そんな店知らないし紹介した覚えもない。そもそもこの店に来るのは初めてで店長に会うのも初めてだ。

おそらくなのだけど、これは誰か別のラーメンマニアと間違えられているのだと思う。ゴリゴリのラーメン通、みたいなのがこの店で髪を切り店長に店を紹介した。ここまではなかなかありがちな事象なのだけど、なぜか店長は飛び込みで来た僕をそのマニアと勘違いした。同じようなデブなのか、同じような顔なのか知らないが、まあ、似ていたのだろう。

良く知らないラーメンマニアの名誉を守らなければならない、そう思った。

僕がここで下手なことを言ってしまってはそのラーメンマニアの名誉を傷つけてしまう。これは下手なことを言えないぞ。ただ、ここで強烈に否定して店長の気分を害してしまうのもあまり得策とはいえない。なぜなら、あくまで僕の生殺与奪の権利は店長が握っているからだ。

「ちがいますよ。別のラーメンマニアと間違えるのでは」

「大変失礼しました」

(ちょっと間違えただけじゃないか。むかつく顔しやがって、ちぢれ麺みたいな髪型にしてやる)

こうなったら大変じゃないですか。

「ちがいますよ。別のラーメンマニアと間違えるのでは」

「大変失礼しました」

(ちょっと間違えただけじゃないか。むかつく顔しやがって、奥歯みたいな髪型にしてやる)

こうなったら困るでしょ。だからやんわりと誘導していって店長に気づいてもらうのがベストなんですよ。

「どうです。他におススメの店とかありますか?」

店長がもうケロッグ我慢できないみたいな感じで訊ねてくる。チャンスだと思った。ここであまりマニア向けでない店を紹介したら間違いに気付いてくれる可能性が多分にある。マニアが好まない感じのチェーン店をおススメすればいい。

「○○とか最近アツいかなー」

よし、これでマニアではないとそれとなく分かってくれる。ベスト!

「あー、○○? え? あそこってチェーンですよね」

店長も不審に思った様子。完全に狙い通りだ。

「なるほどなー、一周回ってあの店、みたいな感じですか? 確かにチェーン店だけど妙なこだわりありますもんね。そこに目を付けるとはさすがだなー」

なんか、一周回ってあえてミーハー路線に行くマニア、みたいな感じに捉えられている、ゴリゴリのAKBマニアが色々なマニアックな娘を推すけど最終的にまゆゆに帰ってくる、みたいになってる。よくわからんけど。

とにかく、最初に否定しなかったものだから完全にその店長の中では僕がゴテゴテのラーメンマニアみたいになってましてね。僕も責任感が強いものですから店長の期待を裏切ってはいけないと、なぜか髪を切りに行く前にラーメンに関する予習をしていく、という良くわからないことになっていまして、

「ラーメンの麺には多加水麺と低加水麺ってのがあってですね、僕はスープとよく絡む低加水麺が好きなんですけど、最近は多加水麺が流行ってですねー」

とか、暗記してきたラーメン蘊蓄を語るんですよ。

「すげー、さすがっすねー知識も豊富」

みたいに店長も大喜びですよ。

髪を切りに行くたびにペラペラのネットで検索したラーメン蘊蓄を暗記していくものですから、そのうちネタがなくなっちゃってですね、つい最近では

「日本で最初に中華麺を食べたのが常陸水戸藩の第二代藩主・徳川光圀、つまり水戸黄門で」

ラーメンマニアというよりはクイズ研究会みたいな状態になってたんですけど、いよいよ完全にネタがなくなっちゃって、

「地元で愛されている○○軒の店主はむかしアルバイトの女の子の手を出して離婚騒動になったことがある。その時に2日間だけ店を閉めた」

ゴシップ誌みたいな情報を引っ提げて髪を切りに行ったのが昨日ですよ。日曜の昼下がりに切りに行ったら開口一番、店長が言うわけですよ。

「申し訳ありませんでした。正直に言いますが、当店ではファイルでお客様の情報を管理していて、それをもとに髪型の注文、会話の内容、読んだ雑誌を管理しているのですが、なぜかお客様のファイルが間違ってました」

これで全ての謎が解けた。別のラーメンマニアのファイルと取り違えられていたのか。どうりで会話も噛み合わないし、注文してないのにラーメンマニアっぽい髪型にされると思った。

「いや、でも本当にラーメンマニアで、多加水麺がモチモチで」

適当に話し合わせていたと思われたら恥ずかしいので、でも実際にラーメンマニアだからってところを強調してしまうんですけど、注目はここからですよ。

これまでは「ラーメンマニア」っていう間違った情報を共有したうえでコミュニケーションを行っていた。でもここからはそれが解消された形で会話が展開される。店長の腕の見せ所だ。

と思っていると、店長が押し黙ってしまった。もしかしたら何を話していいのか分からない状態になっているのかもしれない。僕が気にしていると思って縮こまっているのかもしれない。縮れ麺のように。いまうまいこと言ったね。

ならば、別に気にしてないよ、というアピールのために僕から話題を振ってあげよう。何の話題が良いか。そうだ、ラーメンの話をしてる節々で店長がAKBの話題を出していた、タイムリーだしこれでいこう。

「いやー昨日は指原が勝ちましたね。総選挙」

これが情報共有。これがコミュニケーション。

「え、ええ」

店長もAKB好きですし、旬な話題に喜んでいる模様。

「店長の推しメンだれでしたっけ? 僕は岩田華怜さんですけど。もう卒業しちゃったんですけどね。店長は?」

「えっと、うーんと、まゆゆ? かな」

「あー、一周回ってまゆゆ的なあれですか?」

「そうですね。3票も投票しちゃいましたよ、ははは」

「2位で残念でしたねー」

じつに実のある会話が交わされた。髪型もすっきりし、心なしかラーメンマニアっぽい髪型から脱したような気もした。

間違った情報を共有して会話をする。それは何も知らない人と会話をするより苦痛なのだけど、それはそれで面白いのである。ちょっとラーメンに詳しくなったしね。

帰り道にラーメンを食べる。これは低加水麺かと思いつつ、そういえばAKBマニアなのは美容院の店長ではなく、良く行く居酒屋の店長だった。

夏の匂いを残してパンツが消えた

セミの声がいつもより大きく感じられた。まるで耳鳴りのようだ。金属剥き出しの錆びついた階段をカンカンと昇る。

「いやーまさかあんなところで会うとはな」

「偶然ってすごいな」

たまたま夕飯を買いに行ったスーパーで横田にあった。2年ぶりだった。もう一人の親友、山本が死んでから自然と会わなくなり、連絡もとりあっていなかったので、ものすごく驚いた。

「なに? 近所に住んでるの?」

「いや、家は結構遠い。すごい田舎で山の中だし」

「へえー、じゃあたまたまなんだ」

アパートの鍵を開け、ドアを開ける。そこには信じられない光景が広がっていた。

「よう!」

ドアを開けると、そこには山本の姿があった。屈託のない表情で胡坐をかいてテーブルの前に座っていて、軽快に右腕をあげている。軽やかすぎるし、なぜか全裸だった。

「ようじゃねえよ、なに? お前生きてたの? え? え?」

意味が分からなかった。山本は2年前に交通事故で死んだはずだ。葬儀にも参列したし、特に親しかったということで火葬場にもついていった。

「おい横田、山本って死んだよな?」

「は? 何言ってんのお前?」

横田は不思議そうな顔をしてこちらを覗き込んでいる。どうやら山本の姿が見えないらしい。

「おまえ、あれ見えないの?」

「何のこと? それより早く飲もうぜ」

どうやら冗談でもなんでもなく、本当に山本の姿がみえないらしい。

「突っ立てないで早く入れよ。酒飲もうぜ」

山本は涼しげな顔でそう言った。横田には山本の姿は見えない。そして、山本は2年前に確かに死んだ。総合的に考えて山本は霊魂的な何かなのだろう、俗に言う幽霊というやつだ。

「なつかしいなあ、二年ぶりか」

屈託のない笑顔で山本は笑いかける。色々と観念して、そのままテーブルに座った。

「いいか横田。信じられないかもしれないがここに山本がいる。そこに座ってる。多分幽霊だと思うけど、本当にそこにいるんだ。今も笑ってる。俺おかしくなっちゃったのかな」

横田は隣に座りながらさらに涼しげな顔で言った。

「なんだあ、そんなことか。つまり、山本の霊がそこにいるんだな。なんで出てきたのかは知らないけど、お前にだけ見えるってことは何か用事があってきたんだろ。聞いてやれよ」

霊を受け入れるののが早い。物分かりが良すぎる。まさかジョークかなにかだと思っているのだろうか。釈然としないながらも、まあ、そんなものなのだろうかと思いつつ、とりあえず山本に質問した。

「なんで全裸なの?」

山本はすぐに答えた。

「俺も幽霊になれば白い着物みたいなものが支給されるかなって思ったんだ。みんなそういうの着てるだろ。でも、どうやらそういうのはないみたい。というか、霊界みたいなもの全然ないの。もっと組織的に霊を統括してる組織とかあると思ったらそういうのないの。勝手にやっててくださいって感じ。気づいたら霊になってて全裸だった」

そういうものなのかと思った。

「とにかく目のやり場に困るわ。俺のパンツ貸してやるからはけよ」

山本の後ろにあった畳んでいない洗濯物の山を指さした。

「そうだな。俺もなんか落ち着かないし遠慮なく借りるわ」

山の上から花柄のトランクスを取り出しゆっくとはいた。

「おちつく」

「俺も落ち着くわ」

そこに横田が声を上げた。

「ちょとまってくれ。おかしいだろ、それ」

変なことを言い出すときの横田の顔だ。こいつも山本と同じく会うのは2年ぶりだが、全然変わってない。

「俺は山本の姿が見えないけど、会話を聞くに山本がパンツはいたんだよな」

「うん」

「ちょっとよそ見してたからわからなかったんだけど、そのパンツどうなった? 今山本はどうしてる?」

「座ってるよ」

「じゃあ立つように言ってくれ」

よくわからないが、山本に立つように伝える。すぐに山本はその場で立ち上がった。

「やっぱり何も見えない。じゃあさパンツはどこにいったんだ?」

なるほど。山本がはくまでは確かにパンツはこの部屋に存在した。けれども、山本がはいた瞬間に横田からは山本ごと見えない存在になってしまっている。よくよく考えたらこれはおかしい。

「俺もパンツだけ宙に浮くと思ってたけど、どうやら身に着けると霊が見えない人には服ごと見えなくなるらしい」

なんとも不思議な話だ。

「ちょっと実験してみよう」

横田が提案した。すぐに山本にパンツを脱いでもらう。

「あ、見えた。何もないところから花柄のパンツがでてきた」

「よし、じゃあ次はゆっくりはいてみて」

山本に指示する。

「あ、消えた」

どうやら山本が手に持った瞬間に消えるらしい

「じゃあ、そこにある氷結ストロングの缶は?」

確かに気になるところだ。すぐに山本に持ってもらう。

「消えた」

どうやら山本に触れたものは、霊が見えない人から見たら消えてしまうらしい。

「なんか消そうと思ってるわけじゃないけど、すげー疲れるわ。自分の体が薄くなったのを感じる」

「じゃあこのテーブル触ったらどうなる?」

「消えないな」

今度はいくら山本が触っても消えないらしい。

「なるほどなあ」

横田は何か納得したようだった。そういえば横田は昔からこういうところがあって、なんでも理論的に考える癖があった。

「たぶん、霊には触ったものを消す能力があるんだろう。じゃないと霊が見えない人には服とかカツラとか銀歯とか浮いて見えちゃうからな。でも、あまりに大きいものは消せない。だって、いま山本が座ってるんだから本当はこのアパートごと消えてないとおかしいだろ」

なるほど、なかなか納得のいく仮説だ。さらに横田は続けた。

「多分だけど、物を消すって行為は霊的な力を消費するんだろう。パンツ程度なら問題ないが、酒の缶を消したら薄まったような感じがするって言ってるんだろ? あまり重いものを消すと霊エネルギーがなくなる。だから無意識に大きいもの、重いものは消さないようになってるんだよ、たぶん」

横田はいつもこうだった。頭が良くて考えが柔軟だ。その反面、俺は慎重すぎる性格で、山本は何も考えない無頓着な性格だ。

「だから重いものを消さないように気を付けるように山本に言ってくれ。せっかく霊として出てきたのに消滅しちゃったら困るだろ。たぶん重いものも消そうと思えば消せる。そのかわりエネルギーを使い切って消滅するんじゃないか」

そのまま山本に伝える。

「なるほど、横田らしいな。気を付けるよ。そう伝えてくれ」

「わかった」

俺たちは小学校からずっと一緒だった幼馴染だ。いつも学校帰りに遊びながら3人で帰ったものだった。3丁目の墓場の横のブロック塀は進むにつれて高くなる階段みたいな構造になっていて、そこが俺たちの遊び場だった。

「向こうの端まで落ちずに歩けたら勝ちな」

無鉄砲な山本に、

「理論的に考えて速く走った方が安定する。自転車と同じ理論だよ」

理論的に考える横田。

「ちょっと待てって落ちたら怪我するぞ。やめようぜ」

慎重すぎる俺。

バラバラの性格が俺たちのバランスをとっていたのだと思う。ただ一つ、バラバラな僕らにも共通している事があった。それが、真子の存在だ。

「こらー! ブロック塀で遊ぶなって先生言ってたでしょ! 降りなさい!」

クラスメイトで同じく俺たち3人の幼馴染だった真子。勝ち気で明るく、少し乱暴なところがある女の子だった。ただ、笑顔で素敵なヒマワリのような女の子で、俺たちは3人とも真子のことが好きだった。言わなくても他の二人も真子のことが好きなんだろうなってなんとなく分かっていた。

「真子は元気か?」

山本が急に真面目な顔して言った。すごい真面目な顔で言われても、パンツいっちょなので真剣さが伝わってこない。

「わからない」

すぐにそう答えた。

「お前が事故にあってから俺たちも会ってないからな。なんだか出し抜いているみたいで遠慮しちゃってな。自然とそうなっちまった」

そう続けると横田が反応した。

「なんだ、真子の話か?」

「ああ」

そう答えると横田は黙ってしまった。俺たちは山本の葬儀で真子にあった。真子は山本の死を悲しみながらも気丈に笑っていた。ただ、俺も横田も、あまり話はしなかった。山本が真子のことを好きだったことは知っていたからだ。

同じく、自分たちも真子のことが好きだった。ただ、真子は山本のことが一番好きなんだろうなってなんとなく感じていた。将来は真子と山本は結婚するんじゃないか、喜ばしくもあり、少し胸の奥が痛むような複雑な心境だった。山本が死んだ今、真子に思いを伝えることはなんだか山本の死をチャンスと捉えているような気がして嫌だった。

別に申し合わせた訳ではなく、自然と真子とは連絡を取らなくなった。そのうち横田とも連絡を取らなくなり、いつの間にか疎遠になっていた。その横田と2年ぶりに偶然会い、さらに山本が霊になって現れた。真子の話になるのは当たり前のことだった。

山本がパンツ一枚のくせに真剣な顔で続けた。

「バカなんじゃねえの、お前ら。出し抜くとかそういうのじゃねえだろ。そもそも、真子の気持ち考えたことあんのかよ。真子は、真子は」

そこまで言って黙ってしまった。

「真子に会いに行こう。今から会いに行こう」

山本の声は聞こえないはずなのに、まるで聞こえていたかのようなタイミングで横田が言い出した。何を言ってるんだ。会いに行くとか無理に決まってるだろ。

「連絡先も居場所も分からないよ」

そう言うと、すぐに横田が反論した。

「山本が分かるだろ。霊だし。霊的な何かで居場所くらいわかるだろ」

「わかるのか? 霊的な何かで」

「わかるだろ、霊だし」

けっこうそういうものらしい。

「でも、もう夜も遅いし」

そう反論すると今度は山本が反論した。

「ふざけんな、こっちは霊だぞ。夜遅くなってからが本番だ」

こう言われてしまっては反論できない。俺たち3人はすぐに出発することにした。

「外出するんだし、もうちょっと服着るか? さすがにパンツ一枚は」

「いいよどうせ誰にも見えないようにするし。見せる人と見せない人を分けるやり方がなんとなくわかってきたところだ。マニュアルとかあるといいんだがそういうの一切ないから困るよ」

そういうものらしい。

酒を飲む前でよかった。おんぼろの軽自動車に乗り込む。助手席には山本の、霊、後部座席に横田が乗り込む。山本は何か念じるような素振りを見せ、国道に出ろだとか、高速に乗れだとか指示してくる。本当に真子の居場所を感じ取れるらしい。ただ、霊的パワーをすごく使うとも言っていた。

「なあ、この世の中には幽霊って溢れてるのか?」

山本に質問した。幽霊と会話できる機会なんてめったにない。聞いておきたい問題だ。

「俺もさ、幽霊になれば街に溢れる幽霊が見られると思ったんだよ。でも、全然見えないの。どうやら幽霊同士は感知できないようになってるらしいわ。他の幽霊に干渉しないようになってんだろうな」

「そういうもんなのか」

あまりに孤独である。そう思った。できれば霊界みたいなものがあって、そこで安らかに霊同士で仲良くしていてくれたら、そう思ったが、死んでからはずっと孤独らしい。それが霊となって出てくる人だけに限った話なのかは分からない。

「ここ心霊スポットらしいな。それも比較的新しい。でもやっぱ何も見えないや。いるかどうかも分からん」

助手席に座った山本がそう言った。高速を降りて山道をしばらく走った先にあったダムにさしかかった時だった。霊の口から「心霊スポット」なんて言葉が出てくることがなんだか奇妙だった。

「霊としてさまよってるときに偶然、女子高生が話してるの聞いたんだけど、ここで身を投げて死んだやつがいて、その霊が地縛霊となってこのダムにいるらしい。こわいねー」

霊が何を言ってるかという感じだが、なんだか矛盾しているかもしれないが隣に霊がいると思うと心霊スポットもあまり怖くない。

 

ただ、霊には霊が見える、なんてことはない、それが意外だった。横田は後部座席で眠っていた。

「山本は助手席に座ってるのか? 霊は車に乗るときはバックミラーに映るかボンネットの上にはりついてるか、上半身だけですごい速度で追いかけてくるかだろ、助手席は霊らしくない」

冗談ぽくそう言っていたが山本には伝えなかった。疲れているのか、バックミラー越しに顔をみると少しいびきをかいて寝ているようだった。

「ついたぞ、あの町に真子がいる」

山間から街の光が見えた。そこそこ大きな街だ。長い長い下り坂を経て街へと到達した。

「右折だ」

「次は左折」

「その先に真子を感じる」

山本が指定したのは深夜営業のファミレスだった。

「ここに真子がいるのか?」

いつの間にか横田が目覚めていた。

「そうらしい、入ってみるか?」

すぐに横田が答えた。

「いや、その必要もないだろ。みろ、あれ真子だろ」

大きな窓から店内の様子を見ることができた。そこにはウェイトレス姿で働く真子の姿があった。

「仕事中に来られても困るだろ。仕事終わるまで待とう」

横田の言葉に納得し、そのまま車内で待つことにした。

「こんな深夜まで働いているのか」

遠目なのではっきりとは見えなかったが、なんだか真子の笑顔がないような気がした。

どれだけ待っただろうか。もう明け方近くになった時、ファミレスの裏口から出てきて自転車に乗る真子の姿が確認できた。話しかけようとしたが、真子はスーッと走り出してしまった。

「素早いな、追いかけよう」

「ああ」

信号機が多く、なかなか真子に追いつけない。なんとか姿を見失わないように追いかけるのが精一杯だった。

「あそこの家に入ったぞ。ここに住んでるのかな」

今にも朽ち果てそうな汚いアパートだった。こんなところに真子が住んでいる? なんだか理解が追いつかなかった。

「みろ、表札がある。真子の名前だ。でも男の名前も書いてあるな。真子、結婚してるのか?」

横田に言われるまま表札を見る。確かに、男の名前と一緒だ。そうか、真子は結婚したのか。そう思った瞬間、大きな音がアパートの中から聞こえた。

ガシャーーーン!

何かが壊れる音、そして同時に悲鳴が聞こえた。

「な、なんだ!?」

「家の中で何かが起きてる。それに今の、真子の悲鳴だろ」

「どうすりゃいいんだ」

まごまごしていると横田が言った。

「山本に見にいってもらえ。壁とかすり抜けられるだろ、霊だし」

確かにそうだ。すぐに山本に頼む。

「人の家に勝手に入るの趣味じゃないんだけどな。でも非常事態だ。行ってみる。すり抜けられるだろ、霊だし」

俺の部屋に勝手に入ってたじゃないかと思いつつ、すーっと壁に消える山本の姿を見ていた。1分もしないうちにまたスーッと壁から出てきた山本はこう言った。

「すぐに入れ、ドア破ってでも入れ。緊急事態だ」

「いや、人の家に勝手に入るのまずいだろ」

躊躇していると横田も叫んだ。

「早く入れ、手遅れになるぞ」

勢いに押されるようにドアノブに手をかける。カギは掛かっていなかった。すぐにドアは開いた。

「殺してみなさいよ!」

「てめー上等だ! 殺してやる!」

男と女が言い争う声が聞こえる。ただ事ではないことがすぐにわかった。

「おじゃますね」

一応、小さく声をかけ靴を脱いであがる。ゆっくりと居間まであるくと衝撃の光景が広がっていた。

包丁を構える女に、金属バットを構える男。女の方は、やはり真子だった。

「真子……?」

「え? 嘘? どうしてここに?」

そこにあの日の真子の姿はなかった。笑顔が眩しく、勝ち気で、ヒマワリのような真子は存在せず、暗い表情をして右目を腫らして死んだ魚のような瞳をした真子の姿しかなかった。

「あの男がタチの悪い男みたいだな。真子に働かせて自分は遊んで暮らしてるみたいだ。他に女も作ってるみたいだし、DVだって日常茶飯事だ」

「ほんとなのか?」

男は明らかに強そうだ。そしてタチが悪そうだ。

「てめー勝手に人の家に入ってきて何ひとりでくっちゃべってるんだ。頭おかしいのか? あれか、真子に惚れて家までつけてきたストーカーか?」

男はバットを持っていない方の手でアゴ髭を触りながらそう言った。

「私の幼馴染よ!」

真子は叫ぶように言った。男は真子を睨み、それからニヤリと笑った。

「ほー、その幼馴染さまがどんな用件でここに? まさか真子を救いに来た王子様って言わないよな。残念だが真子は俺の女だぜ」

横田が言う。

「最低のクズ男だな」

山本も言った。

「真子を救おう」

俺も同意見だった。

「ああ、やろう」

僕らはバラバラの性格だ。でも、真子のこととなると考えることは同じだ。戦うことを決意した。

「上等じぇねえか、このもやしっ子が!」

男がバットを振りかぶって襲い掛かってくる。おそろしいスウィングスピードだ。間一髪でよけることができたが、そのままカーペットに足を取られて転んでしまった。

「死ねや!」

目の前に立ちはだかった男が大きくバットを振り上げる。明らかに頭を狙っている。

「やめて!」

真子が男に体当たりした。男の動きは止まったが、逆に真子が弾き飛ばされてしまう。同時に真子が持っていた文化包丁がそのまま男の足元に転がった。男は悠々とそれを拾い上げる。包丁がカーテンの隙間から差し込んできた朝日を反射してきらりと光った。

「どうだ、ヒーロー。これでもまだかっこつけるか? いま謝って帰れば許してやるぞ。刺されるといてえぞ」

山本は笑った。その笑いは真子と男には届いていなかった。それでも山本は続けた。

「残念ながら、俺たちは真子の笑顔を守るためだったらなんだってする」

横田が続けた。

「たとえ化けて出たって真子の笑顔は守る」

そして、俺が続けた。

「死んでも真子の笑顔は守る」

山本が付け加えた。

「まあ、俺はもう死んでるけど」

静寂が訪れた。男の荒い息遣いと真子の息遣い、そして俺の呼吸だけが部屋の中に響いていた。

「覚悟しろやあああああああ!」

男が包丁を構えたまま突進してくる。よけられないかもしれない。死を覚悟した。その瞬間、山本が俺の肩に手を置いた。

「まかせろ」

不思議な感覚が身を包んだ。それと同時に男がパニックになった。

「き、消えた!? どこにいきやがった!?」

どうやら俺の姿が消えたらしい。肩に手を置いた山本が俺のことを消したらしい。消そうと思えば重いものでも消せる。まさにその通りだった。

あとはもう簡単だった。姿が見えずに右往左往する男を、バットを拾い上げて殴るだけだった。男は恐怖に泣き叫びながら気を失った。

「お前、重すぎるよ」

山本の声が聞こえた。それから体を包んでいた不思議な感覚が消えた。

「ねえ、どうして消えたの? え? どうして?」

どうやら効果が消えてしまったようだ。真子が顔をくしゃくしゃにしてすがりついてくる。

「とにかく逃げよう。この男が目覚める前に逃げるんだ」

「うん」

すぐに荷物をまとめてアパートを飛び出す。

「おい、いくぞ、山本。逃げるぞ、出て来いよ」

けれども、山本の姿はどこにもなかった。

横田が言った。

「山本はたぶん消滅した。重いものを消すと霊力使うって言ったろ。お前を消して霊力使い切って消滅した」

「そんな嘘だろ? おい山本、出て来いよ。昔話とかまだしてないだろ。せっかく幽霊になったのに。おい、出て来いよ」

「きっと山本は真子のこと知ってたんじゃないかな。自分が死んだ後の世界でこうして真子の笑顔が失われている。それを知って真子を助けるためにお前の前に霊となってでてきた。だから消滅して本望なんだよ。霊なんていつまでも彷徨っていい存在じゃない。望みをかなえたのなら消滅すべきだ」

「横田・・・」

真子が大きなボストンバックを手にやってきた。

「準備できたよ」

「そうだな、いこうか」

車に乗り込む。助手席に真子が、後部座席に横田が乗り込む。車内は沈痛なムードだったが、真子が喋りだした。

「ありがとう。まさか君が助けに来てくれるなんて」

「あ、うん」

「でも、どうして私が住んでいる場所わかったの?」

「それはその、話すと長くなるんだけどいいかな?」

バックミラーを確認する。

「話していいよな、横田」

問いかけるも返事はない。後部座席に横田の姿はなかった。真子は不思議そうな顔をしている。話を変えるように真子が切り出した。

「そうそう、このダムは有名な心霊スポットでね、わたしファミレスで働いてるでしょ。よく女子高生が話してるの。なんでも、友達を事故で亡くした男が自分のせいだって自殺したんだって。なんでも待ち合わせしててそこの向かう途中に事故にあったんだって」

「へ、へえ」

「なんかね、別の友人と幼馴染をくっつけるサプライズを計画してて、内緒で二人で会うことにしたんだって。でも、自分のせいで事故が起きて、その友人と幼馴染の間もギクシャクして、それを悔やんで自殺したみたい」

「それで、その霊がこのダムに現れるみたいなの。落としたハンカチが消えたり、服が消えたり現れたりするみたい。怖いよね」

「そうか。それで」

また車内が沈黙で満たされる。真子が話題を変えるようにまた切り出した。

「びっくりしたよ、一人で助けに来るんだもん。あんなに臆病だったのに。そろそろ教えてよ、どうして私の居場所がわかったのか」

僕はにっこり笑って答えた。

「どこから話せばいいかな。とりあえず、これだけは知っててほしい」

「なに?」

「幽霊がパンツをはくとパンツが消える」

「なにそれ」

すっかりのぼりきった太陽が、ダムによって堰き止められてできた湖の湖面と真子の笑顔を照らしていた。すこしだけ夏の匂いがした。子供のころに感じた、あの夏の匂いが。

あの娘ぼくが舛添都知事についてきいたらどんな顔するだろう

このブログにおいて政治的な意見や立場を表明するつもりは毛頭ない。なのであえてぼやかせて特定されないように配慮して書くけど、どこかの都道府県の都知事が辞職届を提出したらしい。一連の金にまつわる疑惑や公私混同問題に関する追及に押された形だ。

これらの件に関しては連日テレビで扱われ、ニュース番組やワイドショーなどで嫌というほど報道されているが、その中のある報じ方が、以前から感じていた違和感を決定的なものにしてくれた。それが「街の声」「街の反応」として流される街頭インタビューだ。

ニュース番組なんかでは街の声として路上でインタビューをした映像を流すことが多い。だいたい、巣鴨、新橋、渋谷が三大街頭インタビュースポットであり、老人、サラリーマン、若者、の声をピックアップするようにできている。

前述の都知事の件に関しても、これでもかというくらいに街の声が流された。

「許せないです。説明責任を果たしていない」

「早く辞めてほしい」

「みっともない。セコいですよ」

みたいな感じで「一般市民」「一般都民」の声が流れる。ここで疑問に思うのが、果たしてこれは本当に街の声なのだろうか、という部分だ。

何度も念押しさせてもらうが、僕は別に都知事がどうなろうと反対でも賛成でもない。少なくともここでどちらかの立場で論じるつもりは毛頭ないのだけど、それらを報じる際に使われた「街の声」のあり方には少し疑問符がついてしまう。

もちろん、この件に関しては上記のような意見が大半であろうし、実際に「街の声」なのだろうと思う。けれども、極端な話、1000人インタビューした中で3人だけが上記の意見だった、みたいな場合はどうだろうか。この部分が気になって仕方ないのだ。

そう、1000人中3人のマイノリティであっても、それだけを立て続けに流せばそれはもうもう代表意見、「街の声」になってしまうわけだ。1000人中3人ってのはあまりに偏りすぎなので実際にやったとしても「こりゃおかしいぞ」って見ている人は気づくだろうけど、例えば6:4くらいの比率で分かれている意見を5:5くらいに見せるのはそんなに難しいことではない。4:6くらいに逆転させて伝えることも不自然ではないレベルだ。

つまり、どんな場合でも「街の声」として流すこと、そこにあまり意味はない。構造上、必ず「どれを採用するか選ぶテレビの人の声」になってしまうからだ。極端な話、番組が主張したい意見が出るまでインタビューを続けることも可能だし、それでも出てこないなら仕込みの人に希望通りのコメントを出させることだってできる。単に自分たちの意見を代弁させる手段に貶めることができてしまうのだ。

例えば、街で声をかけて最初に捕まえた3人の声を絶対に流す、そう宣言して実際にランダムに声をかけて、どんな内容でもそれを流す、これでやっとこさ「街の声」ってやつに近くなるのではないだろうか。もしくは1000人に聞いた内容をカテゴライズして平均化し、それに最も近い人の意見を流す。こうしなくてはいけない。もちろんそれは現実的ではないだろうということは理解できる。だったら別に最初からあれをやらなければいいのに、となるわけだ。

だいたい、インタビューに答えている各個人も、本当に自分の意見を言っているのか疑わしい。ああやってテレビカメラを構えられてしまうと無意識でテレビ的な回答をしてしまいそうな気がする。少なくとも僕はウンコとかそういう単語を使わないように喋る。ちょっと心の準備もして構えてしまった意見を言うことは容易に想像できる。本心ではない可能性があるのだ。

つまり、本当の街の声を聴くには、テレビを意識せず、心の準備もない状態で聞いてみるのが一番である。そして、最初に聞いた一人目の声を絶対に取り上げて採用する。ここまでしなくてはならないのかもしれない。

ということで、心の準備のない状態、そういった話を絶対しないような場所ということでエロいツーショットダイヤルに電話することにした。相手の女の子に舛添都知事についてどう思うか聞いてみたというわけだ。

どこかでも書いたと思うが基本的にツーショットダイヤルの女の子はサクラである。エロい話をして会話を引き延ばすほど彼女らの収入になる。そういった事情も踏まえてエロい会話で盛り上がってるところに唐突に切り出すことにより、彼女たちの本心みたいなものを聞き出すことにした。

「お相手とつながりました、やさしく、もしもし、と話しかけてください」

無機質な機械音声が流れる。女の子と繋がったようだ。支持された通り、優しく語りかけた。

「もしもし」

「あ、はい、もしもし」

若い女の子のようだ。声から察するに普通の女の子っぽい。

「今日はどうしてこういうところに電話してきたのかな」

「え、あ、はい、その、今日仕事がやすみなんですけど、約束がなくなっちゃって、暇で」

完全に普通の子だ。清楚な雰囲気すら漂っている。

「へえー、暇だからってこういったいかがわしいところに電話しちゃうんだ、へえー」

「……はい」

「悪い子だ」

「……悪い子です」

「どうされたいの?」

「そんな、恥ずかしいです」

「いわなきゃ」

「えっと、その」

気持ち悪いこと言っててまるで自分が言葉の魔術師になった気分になってくるが、彼女たちは会話を引き延ばしてなんぼの商売であることを忘れてはいけない。基本的に何を話しても合わせてくれる。これが一般女性相手だったら気持ち悪い喋りにガチャ切りされてる。切る際に「死ね」くらいは言われてる。

「いつもはこういう猥褻な場所でどういうことしてるの?」

「えっと、その、自分で触ったりして、その、いやらしい話をして」

「へー!自分で触ったりして!へー!」

「すごく恥ずかしいんですけど、そういうところ聞いてもらえると興奮するというか」

これはサクラの常套手段で、こうやってオナニー的な音声を聞いてほしいというのは、完全なる時間稼ぎとなっている。僕らはバカなので電話口で女の人がオナニー的音声を出してると絶対に電話を切らない。頭を使って会話するよりアンアンいってるだけでいいので効率よく時間を稼げる。かなり多用されがちなローキック並みの基礎的な手法だ。

「じゃあ、今日も触ってみてよ。ほれ、触ってみてよ」

「はい」

こうして厳かに儀式が始まるのだけど、基本的に女性側はは演技だ。電話口で女性は触ってすらいない。ただ声を上げているだけだ。

「ハァハァ」

「あんあん」

とか言ってるけど基本的に真顔で言ってるだけと思ってもらっていい。僕も適当に話を合わせつつ

「エッチな子だ」

「こっちも興奮してきた」

「ゆーか!ゆーかちゃん!」

とか言ってると、女の子もすごい盛り上がってきた演技をしてくる。お互いに真顔なのに、電話上ではすげえ興奮してオナニーしあってる。佳境になってきた。いよいよクライマックスだ。

「ああああああ、はぁん!あああああはぁん!いくううううう!」

彼女の絶叫がこだました。

今だ!

「今回の舛添都知事の一連の疑惑とその対応、辞職についてどう思う?」

「はぁんはぁんはぁーーーー!はぁ?」

「いや、だから、舛添都知事の一連の疑惑とその対応、そして辞職したことについてどう思うか言ってほしい」

「なんで?」

「いや、なんでと言われましても。街の声をきいてまして」

「答えなきゃダメ?」

「できましたら」

さっきまで、いくうううううううううううううじゅぼおおおおおおおとか言ってたのにお互いにすんげえ冷静な声になってんの。で、さっきと声の高さも全然違う感じで

「辞任は妥当だと思う。ただ疑惑のお金や公私混同に使われた金額を考えるともう一度選挙をする費用のほうがあまりに莫大。ただ信頼できない人には都政は任せられない。小さな不正が大きな不正に繋がることだってあるしね。でも、そろそろ費用がかからないような選挙システムを作ることができるのではないかと思う。むしろ作らなければならないけど、たぶんできないでしょうね。逆に倍くらい費用が掛かるシステムが納品されそう」

「なるほど、ご協力ありがとうございました」

「いえ」

「それでは失礼します」

「はい」

これが街の声なのかもしれませんね。これを1000人は現実的に無理なので20人くらい繰り返して、全て伝えればかなり街の声になるのではないかと思います。

さて表題の僕が舛添知事のこときいたらあの娘どんな顔したかというと、電話の向こうなので表情はわかりませんが、あはははんと言ってた時から変わらず無表情だと思います。

ポイント2倍デーは他の日がポイント半分で損ということだ

近所のドラッグストアで買い物をした。決して誤解しないで欲しいのだけど、別に痔が悪化したからポラギノール的なものを購入したわけではない。大人の男の必需品的な、ウルオス?みたいな肌のケアっぽいものを購入した。決してポラギノール注入軟膏ではない。

ドラッグストアには勇ましいノボリが多数立てられていて、さながら戦国時代の風林火山と言わんばかりの勢いを感じさせてくれていた。

「本日は特売デー!」

「超お買い得!」

勇ましい売り文句が勇ましいフォントで書かれていた。すごく活気がある。その中でも最も目立つ位置に置かれたノボリが目に留まった。特に店側が推したい売り文句が書かれているに違いない、そう思い眺めてみると勇ましくこう書いてあった。

「本日はポイント2倍デー!!!」

この店は独自のポイントシステムを採用しており、100円買い物すると1ポイント付与される。そのポイントはこの店と系列店で1ポイント1円として使用できる。それが今日は2倍になる。つまり100円で2ポイントつくというのだ。

今僕が買おうとしている商品が2gが30本入っていて3500円程度、つまり普段は35ポイントだが今日は70ポイントもつくらしい。これはなかなか大きい。

こういったポイント倍増システムに煽られ、じゃあ今日はどうせいつかは使うものをまとめて買っておきましょう!みたいになる人は多い。現に、この店内でもトイレットペーパーやら何やらをまとめ買いしている人が目立つ。完全に購買意欲を煽るのに成功している。

けれども、僕はこういった「ポイント2倍!」といった文言に対して逆に萎えてしまうのである。なんだか損をしたような気分になってしまうのだ。

まず前提として、こういったポイントシステムを採用している店は、赤字になるほどポイントを付与しない。もちろん、与えたポイントは必ず店で使われるという前提があり、いつかは売り上げになるわけだから現金値引きよりも大胆に与えることはできるだろうが、基本的に赤字になるようにはしない。それは商売の原則だ。

つまり、こうやって「ポイント2倍!」とやるということは、本当は普段から2倍あげてしまっても赤字にはならないということだ。じゃあ普段は何なのか、これはもう普段は不当にポイントが半分になっていると考えることができるのではないか。

つまり、ポイント2倍デー!お得だ!ではなく、ポイント2倍デー!それだけあげても大丈夫なのに普段は半分にしやがって、と萎えてしまうのである。しかもこの店は、たまに狂気の沙汰としか思えない、「ポイント5倍デー」までやるので、「2倍デー」であってもそこまでお得でない可能性が高い。

黄色いパッケージの箱を袋に詰めながら、僕は恨めしくそのノボリを見つめていた。何事も言い方で大きく錯覚させられるのである。

僕の職場に、二人のイケメン的扱いを受けている男性がいた。一人はエグザイルのサングラスの破片から生まれてきたみたいな男で、まあ、エグザイルに憧れているんだろうな、という感じの男で、もう一人がFAXで送られてきた海老蔵みたいな男だ。

この二人が、ある美人社員を狙っていて、お互いに争うように彼女にアプローチしていた。この女も結構悪い女で、そうやってエグザイルと海老蔵を競わせていることを楽しんでいる節がある。基本的に僕は部署が違うのでこれらの争いを目にすることはあまりないが、たまに用事があっていくと、エグザイルと海老蔵が「今日は仕事終わったらどう?」「うちのプードルみにこない」とか甘い言葉で囁いているのでこっちが赤面してしまうくらいだ。もう「アモーレ」とかそういう言葉がポンポン飛び出していて怖いくらいだ。

そんなある日、問題の場所に行ってみると海老蔵がエキサイトしていた。周りの人にそれとなく話を聞いてみると、なんでも今日は美人社員の機嫌が良い日らしく、好感度が2倍上がる日だと宣言されたらしい。なんのこっちゃと思うし、そんな宣言をわざわざする女、まともではないと思うが、完全にポイント2倍デーだ。仕事を午後から有給にして花束を買いに行く、みたいなことを言っていた。

それを聞いたエグザイルは、こういう日こそ仕事の燃える自分を演出して好感度をあげる、とでも思ったんか妙にはりきって仕事していてすげえ暑苦しかった。

張り切る二人を尻目に、やはり僕はポイント2倍デーはボーナスタイムではない、普段は半分だということだ、騙されてはいけない、と思ったのだけど別にエグザイルも海老蔵もそんなに親しいわけではないので黙っていた。

けれども、そこで気が付いた。例えばポイント2倍デー、これは普段はポイント半分とペテンにかけられているわけだが、それは普段から日常的に買い物をする人に限った話である。つまり2倍デーしか買い物しない人はそこまで騙されているわけではない。

それと同じで、エグザイルと海老蔵も、完全に好感度が二倍になる日といわれて手玉に取られていて、今日勝負をかけるしかない!と普段のアプローチが半分の効果であることに気づかず燃えているが、日常的にアプローチしていない人にとっては、この好感度2倍デーは完全にボーナスタイムなのである。つまりどういうことが言いたいかというと、僕の出番なのである。

僕は普段からアプローチしていないので、今日だけ2倍、つまり普段は半分です、と言われても損をした気はしない。普段は損かーと萎えることなくアプローチをすることができる。書類を手渡すついでに語りかけた。

「すいません。今度、ご飯行きませんか」

「は?いやちょっと、すいません。いそがしくて」

「そうですよね」

すごいテンポよく断られた。全然2倍デーじゃねえじゃねえか。それどころか、立ち去る僕の背中に彼女と、その横にいた回転寿司のお茶が出てくるとこみたいな顔した女との会話が降り注いできた。

「誰、今の」

「ああ、あれよ、あそこの○○って部署でむちゃくちゃ嫌われてる人」

「うわー、ないわー」

結局、2倍デーは普段が半分ということである。けれども、2倍デーしか経験しない人にはそれは損ではないのだけど、好感度が0なものは2倍デーだろうがなんだろうが、0に何をかけても0、そういうことなのだろうと思う。

「有給なんてとってないで仕事しろよ」

「うるせえ、花を買いに行くんだ」

そう言いあってる海老蔵とエグザイルを尻目に、家に帰って補充したばかりの薬を尻に注入した。今日は症状が酷いので2倍デーと称して2本入れたけど、そんなに症状は改善されなかった。やはり2倍デーはそんなにお得じゃないのである。何事も。

ひとりぼっちレジスタンス

職場のご老人軍団のパソコン駆け込み寺みたいな存在になってしまっている。

僕は学生時代にプレゼンなどをOHPでやってきた最後の世代で、業務に関する技術の変遷、その激動の変化をリアルタイムで見続けてきた世代だ。あっという間に多くの業務はパソコンとインターネットなしでは成り立たなくなってしまった。その変化はめまぐるしく、それらが直撃した上の世代は大変だったろうなあと思う。

多くの人々が仕方ないとそれらのテクノロジーにダイブしていったが、中には強硬に抵抗する人もいて、まるで魔女狩りのような迫害を受けながらもそれらの技術を頑なに拒否してきた人々がいた。パソコンレジスタンスだ。

パソコンは使わない、メールも使わない、資料も手書きだし、何かあれば直接会うか電話だ。僕はそういった抵抗する人々が結構好きで、もし第三次世界大戦がIT軍団とアナログレジスタンスの戦争だったとしたら、レジスタンスに肩入れしてしまう、そんな勢いだ。

けれども、やはり、もう全てのシステムがパソコンとネットを前提に成り立っているわけで、さらには老人レジスタンスは定年や体調不良による退職によってその数をどんどん減らしていく。極小の泡沫政党みたいな状態になった彼らも次第に心折れ、便利なIT生活の支配を受ける立場になってしまうのだった

それは時代の流れである。けれどもなんだか悲しいものでもある。アナログにはアナログの味がある。手書きの資料はその人にしか作れない稀少なものだ。メールで済ますのではなく直接対話をする。効率が悪くなると人は言うけど、大切なことはもっと別な部分にある。なんとしても最後の一人になるまで抵抗してほしかったが、そういうわけにはいかなかったようだ。

僕の経験上、そうやってパソコンやネットを最後まで拒否していた人間が、それらを利用しはじめる、実はこれが一番厄介である。使わなかった時代に聞きかじった「憧れ」みたいなものを存分に発揮しだしたりするので手が付けられない暴れん坊になることが多々あるのだ。

ある日、その老人が僕のところに決死の表情で乗り込んできたことがあった。なんでも、ゲオで借りたDVDをコピーできると聞いたらしい。借りてきた渓流釣りのDVDとご丁寧にパソコンまで持ってきていた。コピーしてくれという。たぶん、パソコンがあればコピーできるみたいな話を誰かに聞いたのだろうと思う。ずっとそれに対して憧れを抱いていて、じゃあ使うようになったのでやってみようか、ということになったらしい。

DVDから内容を取り出す行為はリッピングと呼ばれて2012年の法改正により原則として違法化された。やってはいけないことであると説明しなければいけないのだけど、それ以前に、持ってきている渓流釣りのDVDがよくみたらBlue-Rayだ。そもそも老人が持ってきたパソコンについてるのはDVDドライブなので視聴すらできない。そこから説明しないといけないのだけど、老人からみたらDVDもBlue-Rayも同じ大きさのディスクなので違うと言っても理解してくれない。

何をどうやったらこんな状態になるのかしらないが、信じられないレベルでブルースウィリスも真っ青なレベルでウィルスに感染したパソコンを持ってきたり、完膚なきまでにハードディスクがぶっ壊れたパソコンを持ってきたりする。彼らは口をそろえて「何もしていないのにこうなった」と言う。絶対にそんなわけない。

レジスタンス時代にどこかで聞きかじった「いまSNSが熱い!」みたいな文言も真に受けていて「SNS始めたいんやけど」という相談を持ち掛けてくることもある。じゃあFacebookなどいかがでしょう?TwitterはキチガイしかいないのでFacebookがいいですよ。なんならアカウント作りましょうか?と持ち掛けるのだけど、頑として譲らない。「俺はそのFacebookというやつががやりたいんじゃない。SNSがやりたいんだ。意地悪しないで教えてくれ」である。起業したいけど何していいのか分からないという方、SNSという名称のサービス始めるとこういう人を取り込めますよ。

「見たいサイトがあるんだけど、どうやって見たらいい?」

「なんてサイトですか」

「えっとなんだったかな。たしかXvide・・・」

「職場から見るのやめてください。そもそも見れないようになってます見るなら自宅で」

どこで聞いてくるのかこんなやりとりもしょっちゅうだ。

とにかく、最後まで抵抗してた老人がテクノロジーを覚えるととんでもない暴れん坊に変身する。中でも一番面白かったのが、かなりの緊急事態だったのか、僕のところに突如として電話をかけてきて

「大切なメールが読めない!」

と、今誰かが死んだ、みたいな勢いで言われた。詳しく話を聞いてみると、たぶん文字化けしているようだ。それはまあ最近は少ないけどよくあることなので

「直せると思いますよ。持ってきてください」

と言った。たぶん、エンコードみたいなの変更すれば直るはず。どうせいつものようにパソコンごともってくるだろうから、そこでちょいちょいと直してやればいい、と思っていたら、ご丁寧にプリントアウトしてもってきた。

「繝シ縺ョ逧・ィ倥∈縺ョ繝。繝」

紙にプリントアウトされたこれを僕にどうしてほしかったのか。逆にさらさら読み始めたらどうするつもりだったのか。

さらに「メールが文字化けして読めない!」と割と近い血縁関係の人が死んだ、くらいの決死な感じで言われて、また紙に出されても困るので「パソコンごと持ってきてください」と持ってきてもらうと別に文字化けでもなんでもなくて、中国語で書かれたスパムメールだっただけだったりする。たしかに文字化けに見えなくもない。

ただのスパムならまだ良いのだけど、その中国語のスパムを精査していると、16か所に「大便」って文字が出てきて、普段どんなサイト見てたら中国語で16か所も「大便」と書かれたスパムが来るんだと、と恐ろしくなったりするのです。日本語でも16個大便と書かれたメールはもらったことがない。大便って中国語でも大便なのな。

でもね、こういう暴れん坊なレジスタンスの老人たちってかわいいんですよ。基本的に純粋で、まるで初めてパソコンに触れたころの自分を見ているようで、その真っすぐさがどうしても憎めないんです。

「ムービーを撮りたい」

「どうしてですか?なんのために?」

「うちの家内の誕生日祝いとお礼のメッセージ撮りたい」

「協力しましょう」

こういうかわいい申し出だってあるんです。ちゃんと協力して、撮影までして、動画編集までしてDVDにして渡してあげました。すごい喜んでました。ただ、ちょっと悪戯心で、メッセージを喋ってる老人の禿げ頭が徐々に光を増して、最後は一番明るいレベルの蛍光灯みたいになって光り輝きすぎてハレーションみたいになって何も見えなくなる、みたいなジョークを仕込んでおいたんですが、それに対して

「俺としては結構怒ってるけど、家内がクソ笑ってた」

って言って喜んでくれました。

レジスタンスがパソコンを受け入れ、こうやって笑ってくれる。それはなんだかいいなあって思うのです。

僕がもっと老人になったとき、また新しい何かが世界の主流、みたいになっているかもしれません。そのとき、もしかしたら抵抗して僕らはレジスタンスになるかもしれません。ただ抵抗しきれず、軍門に下った時にあまり暴れないよう、今から肝に銘じているのです。例えば立体ホログラムみたいな技術が主流になってるのに、大暴れした老人の僕が、16個の立体で飛び出す大便を召喚する、みたいにならないように、気を付けなければならないのだ。