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太陽は罪な奴

この間、休みを利用して新江ノ島水族館に行ったんですけど、すごいのな、なにがすごいって江ノ島の海が。

水族館の裏手はそのまま砂浜になっていて、海の家が立ち並んでいて、水族館を鑑賞した後もひょいと海の家に行ってご飯を食べられたりするんですけど、僕が連想するようなオールドタイプの「海の家」って感じのものは少なくなっていて、なんていうかアウトロー的な店が軒を連ねていたりするんです。

その店の外にも中にもアウトロー的な方々が生息しておりまして、ドゥンドゥンという音楽が爆音でかかる中、お前絶対に危険ドラッグやってんだろって人が我が物顔で歩いているわけなんですよ。

もしかしたらなんですけど、ここではむっちゃ危険ドラッグが流通していて、下手したら2千円札より円滑に流通している可能性があるんですけど、海で焼きそば食ってかき氷食ってってイメージとは程遠く、なんかガパオライス食ってジーマ飲んで、みたいなアウトロー感があったんです。

そんな中、とびきりおしゃれっぽい感じの店に入りましてね、海の家というよりは、しゃらくさいアウトローが集まるバーみたいな雰囲気の店に入ったんですけど、もちろん店内は、ドゥンドゥンという音楽が流れてて、店員なんてバリバリタトゥー入ってて顔に金属いっぱいついててですね、注文すら取りにきやがらねえ。

たまりかねて、こっちからカウンターに出向いて注文したんですけど、この店員どもが「うっす」とか言って聞いてるんだか聞いていなんだか、なぜか厨房にいる別のアウトローにオーダー伝えた後にハイタッチしてるし、本当に意味が分からなかったんです。

そんなこんなで運ばれてきた品物を、ザザーンザザーンという波の音を聞きながら食っていたんですけど、そうすると、隣に10人くらいの大所帯のアウトローが座ってきたんです。

アウトローどもは店に入ってきた状態でビンのビールをラッパ飲みしててですね、すげえうるさいんですよ。海に来てテンション上がってるのか、すげえうるさい。大体男7、女3くらいの配分なんですけど、男は完全にエグザイル的だし、女だって、絶対に手をつないでジャンプして空中に浮いてる写真をフェイスブックに上げてる感じですよ。そいつらが会話してるんです。

「今日のバーベキュー、最高かよ」

「それな」

みたいな会話してるんですね。どうも仲間内でバーベキューに来て、それは終わったか何かで、飲みたりないからこの海の家にきた、みたいな感じなんですけど、完全にアウトローなんでしょうね、タトゥーをどこに入れるか、みたいな会話で盛り上がってるんですよ。

「おれ、今日はマジで楽しかった」

「おれも」

「安心できるメンツってお前らだけなんだよねー」

「久々に集まれてマジ感謝」

みたいな会話が展開されていて、どうやらそれぞれ別の生活を歩んでいる昔の仲間が久々に集まってバーベキューをしたらしく、近況報告みたいなものが始まったのです。

こうなんていうか、アウトローはアウトローで大変なんだなって思ったんですね。向こうだって僕のようなデブのオッサンの生き様なんて知ったこっちゃないでしょうが、それと同じように僕もアウトローの生き様は知らないんですね。で、どうも彼らを見ていると、普段いかにアウトローなのかがちょっとしたステータスみたいになってるんですね。

「この間、ごちゃごちゃうるせえ上司、睨み返してやったらマジびびったてたわ、あのハゲチャビン」

まずグループのリーダー格っぽいアウトローが、スコットノートンみたいな肉体をしたアウトローが切り出します。

「パネェ」

「さすがジャクソン」(確かにこう呼んでた)

ただ、そんな好戦的な俺もこのメンツでは牙を抜かれる、マジ落ち着く、みたいな感じで会話が展開していくわけです。すると、その横の、ガンバ大阪井手口陽介っぽい人が言います。

「俺はこの間、ラーメン屋に並んでたんだけど、行列に横入りしようとしてきたハゲチャビンを怒鳴りつけてやった」

この人たちはどれだけハゲチャビンに恨みがあるのか知りませんけど、ここでまた武勇伝ですよ。

「パネェ」

「さすがRD(アールディー)」(確かにこう呼んでた)

なんか順番にいかに自分が暴れたかをカミングアウトしていく流れになって、電車でうるせえホスト風を怒鳴ってやったとか、アマゾンの箱がでかすぎるから宅配の奴怒鳴ってやった、DVD一枚をダンボールで運んできやがる、とかですね、そういった武勇伝が続いていたんですよ。で、武勇伝の後にはそれでもこのメンツだと落ち着く、みたいな流れになるんです。

で、いよいよ、僕がちょっと注目していた一番端に座る男の順番になったんです。

「ん?どうだ?ヨウヘイ」

どうもその男はヨウヘイって呼ばれているんですけど、なんていうかあまりこのメンツに溶け込め切れてないんですね。早い話が、あまりアウトロー感がなくて、どちらかといえばこっち側っぽい。色白でもやしっ子みたいな感じですし、アウトロー列伝にもあまり心躍ってない様子がしたんです。

そんな彼でも武勇伝を言わなければならない雰囲気なんですが、彼にそのようなものがあるとも思えない。どうもグループ内でも彼の立ち位置はそうみたいで、どうせないだろ、お前に武勇伝なんてって感じでジャクソンもRDもニヤニヤしてるんです。

そしてついに、ヨウヘイが口を開く。ついに彼の武勇伝が語られた。

「おれさ、この間、AV女優のサイン会行ったんだよ。人気のある女優で4時間くらい待ったかな。で俺の番になったんだよ。でも目の前には大好きなAV女優いるんだ。でもな、俺、握手せずに帰ってきたわ」

RDとか、はあ?みたいな顔してるんです。私19歳でがんになったときいい子でいるのをやめました、って言われた時の桜井君みたいな顔してるんです。他の女子やアウトローも「ハテナ?」って顔してて、ジェイソンなんて

「それのどこが武勇伝だよ。だっせー!」

とかバカにしてて、グループがドッと盛り上がったんです。

「さすがヨウヘイ」

「ウケル。サイン会(笑)」

「見事にオチ持っていったな。全然武勇伝じゃねえ」

そう盛り上がる面々の横で僕は一人震えていた。ガタガタと震えていた。

「こりゃあとんでもねえ武勇伝だ」

まず、AV女優のサイン会や握手会に行ったら、絶対に握手する。許されるならチンポくらい出す意気込みで臨むはずだ。なのに、4時間も待って握手しない。これはもう悪魔が産み落とした闇の子と言っても過言ではない。

ヨウヘイはきっと認めたくなかったのだ。自分が夢中になっているAV女優が、初めて画面以外を通して目の前に現れたとき、その実在性を認めたくなかった。そして、その彼女が実在する一人の人間であると感じたとき、自分がどれほど卑怯な人間なのか痛感したのだと思う。

4時間待ったのだ。それもいつも抜きまくってるAV女優だ。どんなにその実在性を否定したとしても、普通なら、まあ握手くらい、となる。そこを彼は誤魔化さなかった。自分を押し通した。それは上司を睨むより、何も悪くない宅配の人を怒鳴るよりとんでもない武勇伝だ。自分を押し通したのだ。

「やっぱヨウヘイはウケるな」

「ヨウヘイおもしろい」

お前らごときがヨウヘイ様を呼び捨てにするな、そう思ったが、RDとかマジ喧嘩強そうなので黙っていた。

夏の海に集うアウトローたち、その中にもとんでもない武骨な精神力を持ったナイスガイがいることが僕にとってはとても嬉しかった。照り付ける太陽に波の音、本当に太陽は罪な奴なのだ。