意識高い人は意識低い人をどれだけ許容してくれるのか

おじさんはね、眩しいのよ。君たちを見てると眩しくて目がクラクラしてきちゃうわけよ。夢や希望に燃えて明日に向かってワクワクしてる君たちはすごいエネルギッシュだ。君たちはまるで太陽だ。でもね、太陽だってあてすぎれば植物を枯らしちゃうわけ。今月はどのタイミングでピンサロに行くか、狙いは私服デーか、そんなことしか考えられないおじさんにとって君たちは過ぎた太陽なんだよ。

いつごろからだろうか、主にインターネット上で向上心やらがやたら強い人を「意識高い系」と呼ぶようになった。それが発展していって、向上心や意欲だけはいっちょまえだけど中身が伴っていないような人を揶揄するニュアンスへと変化していき、今やちょっと小バカにした感じすらあるけど、やはりそのアグレッシブさは僕らから見たら相当に眩しい。彼ら意識の高い人は月曜日から勉強会やセミナーのことを考えているが、僕らは月曜日から週末のGIIレースの買い目のことしか考えていない。これはもはや生物としての成り立ちが違うレベルだ。

「むちゃくちゃセミナーに誘われて困ってるんです」

後輩の山本くんが相談してきた。釣りと美少女フィギュアをこよなく愛する少し大人しめのナイスガイだ。彼は人との付き合いが苦手で、できれば釣りをして日々を過ごしていきたいと思っているのだけど、大学の時の知り合いの知り合いに熱烈にセミナーに誘われるようになり、困っているらしい。誘い文句の文面を見せてもらったが、

「俺たち若い力で一緒に世界を変えていこう!」

みたいな刺激的なワードがポンポン飛び出していて怖いくらいだった。ほぼ毎週のようにセミナーや勉強会に明け暮れているようだったが、具体的な話はあまり出てきていない。目的と手段が入れ替わってるように感じた。俺たちで世界を変える!と政府転覆の革命でも狙っていたら面白いのだが、どうもそうではないみたいだ。

「どうやって断ろうか悩んでるんです。すごく強引で。なにかいい理由で断る方法考えてくれませんか?」

なるほど、自分の言葉では断りきれる自信がなく、一緒に断って欲しい、とのことだった。断っちゃうのか、面白そうなのに、一生に世界を変えるとか最高だぜ、と思いつつ彼からの誘いの文面をみていると、ある文章が目に留まった。

「どうしても参加できないのなら他に興味ある人を誘うこと。人数に穴が開くとこちらが迷惑します」

お前がダメなら他の生贄を差し出せ。そう書いてあるように見えた。この文面からでもかなりの強引さが読み取れる。どうも、山本くん自身も誰か別の友人から生贄として差し出され困惑しているようだった。

「これ、俺じゃダメかな?」

「え?」

山本くんが困惑する。話が見えないようだった。

「いや、俺、こういうの興味あるし、俺を生贄に差し出して山本くんは逃げる感じで」

「でも、「若い力」って書いてあるし若い人じゃないとダメなんじゃ」

山本くんもけっこう僕に対して失礼だな。黙って釣りしてろよ。

「おっさんだけどまだオナニーとか毎日よ、若い若い。年齢制限書いてないしいけるって」

「はあ」

こうして、山本くんに紹介してもらい、意識高い何らかの勉強会サークルを主宰する人物と接触することとなった。山本くんの話によると相手はよく知らない人だが、とにかく意識が高いらしい。高すぎて何を言っているのか分からないことすらあるようだ。

ようし、それだったらおじさん、圧倒的に意識が低いところを見せちゃうぞ。圧倒的な意識の高さに圧倒的な意識の低さ、どんな化学反応が起きるのか。受け入れてくれるのか。眩しい太陽は僕を照らしてくれるのか。意識の低いおっさんの挑戦が始まった。

「こんにちは」

早速、山本くんに教えてもらったLINEにメッセージを送ってみる。すぐに返事が返ってきた。

「いきなり挨拶だけ送られても困ります。どこのどなたか自己紹介をし、それから挨拶が基本です」

なるほどこいつはうぜえや。最初からなかなか軽快に飛ばしてるな。

「申し訳ありません。山本くんより紹介されました○○と申します。□□さんが主宰されている勉強会に大変興味があり連絡しました」

しっかり自己紹介。相手は僕の12個も年下ですが、その辺をぼかして自己紹介しました。するとすぐに返事が帰ってきて、

「なるほど」

なるほどじゃねえよ。そっちも自己紹介しろよ、基本だろ、って思うのだけどここは我慢。ここは我慢。

「いつ会える?」

三つ目の発言でいきなり会おうである。ここまでのスピードはポイント制の有料出会い系サイトに巣食う男レベルだ。

「起業とかって興味ある?」

「マーケティング興味ある?」

「プログラミングできる?」

「若手が交流するサロンあるんだけど参加できる?」

矢継ぎ早に質問を浴びせられる。こいつは俺に何をやらせるつもりなんだ。適当にはぐらかしつつ会話を続ける。

「友人とか多い?本当の友人はいる?悩みとか相談できる人いる?」

「いえ相談する人ってのはいないです」

「そうかあ。相談する人いないのかあ。うーん。500人規模のイベントを主催した経験から言わせてもらうと、相談できるパートナーは必須だよ」

どうもあまり人脈がないとか思われたようで、相談する人がいないのがご不満な様子。人脈こそが重要というアピールでしょうか。500人規模のイベントってのがよくわかりませんが。もしかしたら、人脈がない時点で彼ら的にはかなり意識が低いのかもしれません。でもまだまだこんなもんじゃない。筋金入りに意識が低いところを見せてやりたい。

「で、いつ会える?」

やはりしつこい。出会い系サイトの男か。

「来週の月曜日ならなんとか都合つくかもしれないです」

そう答えると。

「うーん、その日は難しいかな。でもなんとか勉強会の前に個人的に会っておきたいんだよね。やる気とか確認したいし。月曜日は難しいのでリスケで!」

「リスケ?」

「そう、リスケ!」

「グリードアイランド編でゴンとキルアの仲を引き裂こうと出てきたけど念能力の師匠になってしまった……」

「は?」

 

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「いや、なんでもないです。勘違いしました。すいません」

なかなかいいアピールが出来たと思う。

「最悪でも定例MTGまでに一度会っておきたいんだよね。難しい?」

MTGまでですか?」

「そうMTG

 

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Magic: The Gathering MTG-雷口のヘルカイト)

「なにこれ?」

「すいません誤操作です。間違って画像貼ってしまいました。すいません。ほんとすいません。全然関係ないです」

こんな感じでやり取りしていたら、ついに意識高い人が怒り出した。

「さっきから君、あまりやる気があるように感じないけど冷やかしなら御免だよ。ほんとにやる気あるの?君に夢はあるの?夢に向かって自己研鑽してる?」

なんかここまでずっと耐えていたんですけど、すっげえ上から目線なんですよ。一緒に世界を変えていく仲間を探しているにしてはあまりに上から目線なんですよ。掴もうぜ!ドラゴンボール!じゃなくてドラゴンボール掴むために君はどうやって貢献できる?自己研鑽してる?ってニュアンスなんですよ。そりゃ誰も探しにいかねーよ。悟空も萎えるわ。

年齢的なことは言いたくないし、別に年が上だからって偉いとは思わないけど、お前俺の12個も年下じゃねえか。俺がオナニーをラーニングしたくらいのころ、お前、精子だぞ、精子

なんかごちゃごちゃやりとりしてると、なんかそういった意識高い人が集まる交流の場というか、文化人が交流するサロンってものが、オンラインやオフラインであるらしく、

「いきつけの若手が交流するサロンあるんだけど、興味ある?そういうの参加したことある?」

とよく分からないことを聞かれたので正直に

「はい、サロンならサクラドロップスとかあります」

高円寺ピンサロ サクラドロップス 

こらっ!サロンてこれピンサロじゃないかっ!たしかにサロンだけどっ!ピンクっ!てツッコミ期待してたんですけど

「ふん、そう。聞いたことないな」

おいおい、意識低いんじゃないか。で、あまりに夢とか将来のビジョンとか聞かれるんで、ついに根負けして

「夢はあります。できれば開業とかしたいですね。自分も好きな業種でたくさんの顧客を満足させられるようなサービスを提供したいです!」

と結構意識高いこと言ってました。意識高そうに見えて全部枕詞ににピンサロがつくんですけど

「夢はあります。できれば(ピンサロを)開業とかしたいですね。自分も好きな(ピンサロという)業種でたくさんの(ピンサロの)顧客を満足させられるような(ピンサロの)サービスを提供したいです!」

すげえ意識低くなったな。さすがに怖くて言えないけど、意識高い人もこの発言にご満悦な様子で、

「そのやる気を待ってたんだよ。ジョブズいわく「進み続けよ、決して安住してしまってはいけない」だからね」

ジョブズを引用してご機嫌ですよ。

「まあ、ジョブズじゃなくてブロージョブですけどね」

「は?」

「いえ、なんでもないです。なんでもないです」

さすがにジョブズの名言に対してブロージョブ(フェラチオ)は意識が低すぎる。圧倒的な低みだ。ちょっと僕、可哀想になるくらい意識低いな。

「まあ、開業したいのならもう一度具体的なマイルストーンを立ててアジェンダを明確にし、それに必要なスキルをアサインしてスキームを明確にする。面倒なことをペンディングせず、プライオリティを割り振ってサステナビリティが……」

と意味わからないこと言い出したので、こちらも負けじと

「オキニの嬢がダメだったからヘルプの嬢をパネル指名してユーロビートがガンガン流れるベンチシートではい、四番シート、リエちゃんパネル指名のお客様、がんばってーどうぞっ!六番シートはフラワータイム、お時間まで一生懸命イッチャッテッ!」

とピンサロのマイクパフォーマンスで対抗したんですけど

「そこでエビデンスがインポータントなマターで」

「花びら回転が制服デーで名刺割引が」

と相手がルー大柴みたいになって全く話がかみ合わなくなってきて

「とにかく一度、君の夢をゼロベースで考えるほうがいい。とにかく会ってみよう」

とか言い出して、まだ会いたいのかよ、と思いつつ

「ゼロベース?」

「そうゼロベース」

 

 

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(B'z ZERO, 1992年)

 

「すいません。B'zの松本さんはベースではなくギターでした!」

「すいません、返事ください!」

「すいません、相談する人いました。松本に相談します!」

「でもたぶん冷やかされるからやめます!」

「返事ください!」

「既読つけてください!ブロックしないで!」

返事が来なくなりました。

意識の高い人は、意識の低いおっさんの相手をそこそこしてくれる。誰でも照らしてくれる彼らはやっぱり太陽なんだ。でもおじさんにはちょっと眩しすぎるな。あまりの刺激におじさん、呼吸が止まって意識レベルが低くなりそうだわ。