リアル脱出ゲーム、というものがある。
ちょっと昔の話になるが、パソコンで息抜きをするちょっとしたゲームとして「脱出ゲーム」なるものがあった。だいたいが起動すると何らかの密室に閉じ込められていて、部屋の中をあちこちクリックするとパズルが出てきたり道具が出てきたりする。それらをクリアするとまた別のパズルが出てきて、と最終的に部屋からの脱出を目指すゲームだ。ちょっとした時間つぶしのはずがついついはまってしまい、2時間経過していた、なんてこともある。
そういった脱出ゲームをリアルで展開したらどうなるか。それを実現したのがリアル脱出ゲームだ。実際に何人かの人間を密室に閉じ込め、ヒントや問題を探して部屋からの脱出を試みるというものだ。株式会社SCRAPが提供するリアル脱出ゲームは、様々なイベントやテレビ番組にもなっており、皆さんも目にした機会があるのではないかと思う。また、SCRAPはアジトオブスクラップと呼ばれる常設型の脱出ゲーム施設を設けており、そこに行けばいつでもリアル脱出ゲームを体感できるようになっている。
これらのリアル脱出ゲームの根底には「大人が本気で遊ぶ」というものがあるように思う。現代社会では、いっぱしの大人が真剣に遊ぶ場所はそんなにない。もちろん大人には大人なりの遊びってやつは沢山あって、夜の街に繰り出したりゴルフしたりなんかするのだろうけど、ただ単純に遊ぶというコンセプトに基づいているものはそうそうない。
ふらっと公園に行って何が面白いんだから分からない遊びをする。よくわからない秘密基地を作る。ゴミみたいなものを大切に保管して宝物として崇め奉る。虫を沢山捕まえられるやつがヒーローだ。そういった「童心」を感じられるものは大人になればなるほど遠いものとなっていく。「童心」は満員電車に揺られ人間関係でひずみ、残業によって色褪せていくのだ。
そういった中でリアル脱出ゲームはちょっとした童心を取り戻させてくれるのではないだろうか。例えば、多くのリアル脱出ゲームでは部屋の中を捜索するパートがあるのだが、そのほとんどが後先考えずに部屋を散らかしまくって捜索することが重要となる。そこで、これ誰が片付けるんだろうなどと考えてはいけない。とにかく片っ端からひっくり返して捜索しまくる。あとからすげー怒られるのに散らかしまくる子供の心がそこにある。
今回、その童心を取り戻すべく、浅草にて「Escape from the RED ROOM」というものに参加してきたのでその報告を行いたい。ちなみにリアル脱出ゲームとは「謎の解読」が一番の肝である。その部分をネット上に書いてしまうネタバレをしてしまうと、大変つまらないことになるので注意して書きたいと思う。
基本的にこういったリアル脱出ゲームは複数人で協力して脱出を目指すことになる。だいたい6人から10人くらいが一般的だろうか。もちろん、もっと少ない場合もある。例えば日曜日の13時からの回、とかであるならば偶然その回のチケットを購入していた見知らぬ人とも協力して脱出を目指すこととなる。そこから女の子と仲良くなって・・・なんて展開も十分にありえるのだ。遊びにおいて知人と他人は関係ない。遊んでいるうちに友達になっている、そんなところも「童心」に帰ることができる一因だ。
ちなみに筆者は、この「女の子と仲良くなれるかも」という部分に惹かれて、もう一人の汚い中年と二人で別の脱出ゲームに参加したことがあるが、見事に二人の中年以外、ガチのカップルで、脱出どころの騒ぎではない思いをしたことがある。十分に注意が必要だ。
さて、こういった複数人が参加するリアル脱出ゲームだが、基本的に一人でガシガシ解いて進んでいけるようには作られていない。何人かが協力しなかればならないように作られている。そこで大切になるのが「情報共有」だ。謎自体はそこまで難解ではないのに、次から次へと提示される情報を整理できず、あえなく時間切れというパターンはよくある。
故に、スマホの使用の可否を十分に確認する必要がある。脱出ゲームのルールによってスマホの使用が制限されていることもあるが、使用可能であるのならば積極的に使っていくべきなのである。どこかで手に入れたヒントを画像に収めて皆に見せれば、口頭で伝えるより何倍も伝わりやすく情報共有と面で大きなアドバンテージとなる。
さて、文字通り真っ赤な部屋に閉じ込められる「Escape from the RED ROOM」であるが謎が解けるたびに「解けた!」「やった!」と大きな声があがる。まるで子供のようである。「童心」ってやつだ。大人がここまで無垢に大声を上げることなど、そんなにない。
難解な謎にぶちあたると、「これはこうじゃないかな?」「いやいや、こうだと思うよ」「いやそれは違うんじゃ」みんな活発に意見を出し合う。そこに打算や計算などは存在しない。まるで子供のようである。「童心」ってやつだ。常に平等な立ち位置で遊びに向かう。遠いあの日を思い出す。
時には体を動かす必要もある。ほとんどのリアル脱出ゲームが時間制限があり、時間までに脱出しなければならない。急いで小走りになることもあれば、焦って激しく動くこともある。いつのまにか夢中で体を動かしていて汗だくだ。まるで子供のようである。「童心」ってやつだ。泥だらけになるまで遊んだ日のことを思い出す。
ある問題を発見した。これを解くには皆の知恵が必要だ。しかしながら時間も差し迫っている。ここに全員を呼んで皆でワイのワイの言う時間はない。けれども、これを手っ取り早く情報共有したい。焦る気持ちが生まれた。まるで子供のようである。「童心」ってやつだ。あの時僕らは、自分たちでは解決不能なあらゆる問題に対して、どこかで焦燥感を募らせていた。
「スマホ持ってますよね」横の男が僕に話しかけてくる。「うん、もってる」すぐに答えた。「じゃあこれを写真に収めてください。それをみんなで見ましょう」、「おっけーまかせとけ」すぐにスマホを取り出し、撮影した。なんだか自分が役に立ったということが誇らしかった。このグループの中で自分が貢献できた。それが妙に誇らしかった。まるで子供のようである。「童心」ってやつだ。あの時僕らは、グループの中で貢献しあってた。
「ちょっとこの画像をみてください」ほかの謎にとりかかっていたチームメイトを集めて情報共有する。みんな口々に「なんだろうこれ」「なんだろうね」「難しい」と僕のスマホを回して難しそうな顔をしている。まるで子供のようである。「童心」ってやつだ。あの時僕らは、分かることの方が少なかった。大人の世界は謎だらけで、ずっとそれを眺めていた。
すぐにスマホをポケットにしまう。いよいよ制限時間が近い。果たして僕らは脱出できるのだろうか。僕の胸の中では不安な気持ちと異常な高まりが混在していた。それはまるで子供のようで、「童心」ってやつだった。あの時、僕らは常に胸が高鳴っていたし、漠然とした不安を抱えていた。
いよいよ時間制限が近い。どこからともなく音楽が聞こえてきた。多くのリアル脱出ゲームは時間制限が近くなるとほのかに重低音が流れ出してきて焦燥感を煽る演出が会あったりする。まるで子供のようで童心ってやつだが、まんまとその演出にひっかかって焦ってしまうことが多い。
けれどもこの時は違った。その流れてくる音がおかしいのだ。「あんっ」「やだっ」「もう!」明らかに艶めかしい女性の音声がかすかに聞こえてくる。普通に考えたらありえない音声だ。もしや、これが最後に残された最大の謎?このセクシーボイスから何か謎が解けるのか。
「私、思うんだけど」
女の子が難解な謎に対する見解を述べようとする。すぐに僕はそれを制した。
「しっ、ちょっと黙って!なにか聞こえないか?」
その表情はけっこう男前であったと思う。謎が解ける前に何かが閃く金田一のようだったと思う。女の子も耳を澄ませて今にも「はじめちゃん・・・」って言いそうな顔をしている。
「ほら、なにか聞こえる」
チームメイト全員が耳を澄ます。
「やだあ、だめだって」
「謝礼があがりますよ」
「えー、どうしようかな」
「さきっぽだけなんで」
「えー」
「謝礼があがりますよ」
これあれだ。僕が結構好きな素人ナンパもののエロ動画だ。女の子をナンパしてきて謝礼を出すとか謝礼が上がるとかいって脱がしていくやつだ。誰が流してるのかしらないけど、なんで僕の好みにピンポイントな音声を流してるんだ。それが謎を解くカギか!いったい誰が俺好みの音声を、そしてそれはどんな謎に繋がるのか!?いったい誰が!?
僕だった。
いやー、さっきスマホでみんなに画像見せたじゃん。アンドロイドのアルバム機能って恐ろしくて、撮影した写真もエロ動画も同じフォルダにあるのな。画像見てそのままポケットにしまう時にしゅっと隣の、脱出ゲーム始まるまでにみてたエロ動画再生されたのな。そりゃあ俺好みの音声なはずだよ、俺の動画なんだから。おめでてーよな、しっ!何かヒントがって男前の顔してエロ動画の音声聞かせてんだから。
「ごめん、謎でもヒントでもなんでもなかった。俺のエロ動画だっ「謝礼があがりますよ!」た。ごめん」
ヒントの画像を見せて間違えてエロ動画を流してしまう。まるで子供のようである。「童心」ってやつだ。子供はスマホの容量パンパンになるまでエロ動画を入れないし、ちょっとした空き時間に見たりしない。
あまりの恥ずかしさに完全に赤面状態で真っ赤かな僕の顔は、文字通り真っ赤なRED ROOMより赤かったと思う。はやくこの場から立ち去りたい、それこそが、僕の「RED ROOMからの脱出」だったのだ。
ちなみに、もっとも子供心に帰ってるなーと思う要素が「脱出成功しても名誉だけ」という部分である。脱出に成功しても成功したという満足だけだし、失敗しても別に何もない。なのに、成功するとすごく嬉しいし、失敗すると悔しい。見返りはその名誉だけなのに、一生懸命になってしまう部分が、最も童心に帰ってる部分ではないかと思う。「謝礼が上がりますよ」と言われて下着を見せてしまう素人女性は、童心を取り戻すべきである。いや、取り戻さないべきである。